のぞき!ふぉ。

「暑ぅーい!」

 手でぱたぱたと顔を仰いでいたねるが、クーラーの温度を下げているらしい。ピッという電子音が連続して部屋に響く。
 私はあることに気付いた。好きな人の表情が硬いということに。

(てっこ、具合でも悪いの?)

 ねるは様子のおかしい平手を気に留める素ぶりも見せずに手を引いて、さっきまで私がダイブしていたベッドに腰掛けた。平手はもうひとつのベッドに腰掛ける。
 しばらく、沈黙が続いた。年頃の女の子が一言すらも交わさないとは。二人の仲からすると、異常な光景だった(私と志田なら充分有り得ることだが)。

 ねるは、こちらからは後頭部しか見えないが、平手の顔はひたすら暗い。なにかを思いつめているような、そんな感じの表情だった。
 喧嘩でもしたのだろうか。どことなく気まずい空気が、クローゼットまで漂ってくる。

 暑い。クーラーは利いているらしいが、クローゼットの中までは涼しい風が届かない。こいつの体温がなんか高い。「痩せろ」と、最近自分がちょっぴり太ったことを棚に上げて、心の中で毒突く。

 静止画のような光景に、ようやく動きがあった。
 ねるが腰を上げたと思ったら、平手に顔を寄せていた。胸がざわついた。

(えっ……?)

 結局、平手は顔を背けたのを確認できて、安心する。
 ねるにはチャラい印象を持っていたが、彼女持ちの人に平気でキスをするなんて。相手が平手だから、尚更だ。
 平手の拒否した反応に安心を覚えるはずなのに、それでも、胸のざわつきはおさまらない。

(なんか、やな予感がする––––)

 くそ、暑い。志田の生温かい息が頭にかかるのが鬱陶しい。

 平手が枕元のデスクに手を差し伸べた。目を凝らして見る。私が置いたCDに気付いたと思ったが違うようだった。ネックレスを置いたらしい。デスクの上に置かれたアクセサリーが、照明を受けてキラキラ輝いている。

(あれは、梨加との––––)

 可愛いと思っていたネックレスが、実は恋人とのお揃いだったという苦い思い出が蘇る。
 もう過ぎたことなのに、苦しくなる。大きい溜息を漏らしそうとしたところで、クローゼットに隠れているということを思い出して、呑み込む。

 虫の知らせというのは––––馬鹿にできない。それから信じがたい光景を、私は目の当たりにするからだ。
 志田の「面白ぇもん見れっから」の言葉の意味がわかるのはすぐのことだった––––。

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