通過儀礼の刑、への準備

 冬が駆け足でやってきてそぞろ寒くなったのに抗うように、必要以上に効いた暖房で秋の終わりとは思えぬ温気うんきが車内には籠っていた。平日の昼下がりだからか、乗客は少ない。バスの揺れに呼応するように吊り革も揺れ動く。窓の向こうは、田園ばかりのみずぼらしい光景がひたすら続く。都会とは違い、空が広く感じる。陽はまだ高い。
 田舎景色の中で何か面白いものでも見つけたのか、はしゃぐ少女に母親が静かにと優しく諭している。
 陽に雲がかかり、明るくなったりくらくなったりをひきりなしに繰り返している。まるで私の心情みたいだな、と私は思った。

 自分でも可笑しいと思うのだが、イニシエーションのつもりで珈琲を飲んでいる。駅前にあった、自家焙煎が売りの純喫茶店で購入してきたものだ。

「苦……」

 大人の味だった。自分は一体なにがしたいんだろう。
 香水だって、最近購入した新箱から取り出してつけている。
 服も、贅沢して買った一張羅いっちょうらのもの。
 下着も、思い切って新調した。
 スクラブで、全身の角質をしっかりと落としてきた。
 美容室にだって、急遽予約入れて綺麗にしてきた。
 全ては今日のために、と意気揚々と準備をしていたのがウソみたいに、とんでもなく感傷的になっている。

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2件のコメント

  1. さくらん坊様

    お返事ありがとうございます。
    最新作2作早速拝読いたしました。

    あおたん、どうなっちゃうのぉ!?

    楽しみです!!

    +1
    1. >うに 様

      毎度コメント、そして早速拝読いただき有難う御座います。
      どうなっちゃうんでしょうねぇ!?

      楽しみにしててください☆笑

      0

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