のぞき!ふぉ。

嘘。
嘘だ。
嘘だ。嘘だ。嘘だ––––。

 私の知っている平手は、こんなんじゃない。
 綺麗なお姉さんに一途で、猛アタックの末に実った初々しい恋愛に没頭している、真っ直ぐでピュアな中学生。それが平手友梨奈だ。
 嫌がるどころかこういう展開を喜んでいるそいつは、誰だ。

 そういや。最近の平手は妙に色っぽかったことを思い出す。単に思春期による成長の恩恵と思っていたが、梨加以外の女性を知った、最もシンプルな理由かもしれないと思うと、胸が張り裂けそうになる。

平手なりに積極的に話しかける姿。
好きな人を見ただけで、晴れやかになる顔。
やきもちを焼く年相応な中学生。

 幻想が雪崩のように崩壊していく。
 頑固な脳みそがようやく、理解した。これは単なるおふざけではない、れきっとした浮気現場なのだと。

ジュルッ……ジュルッ……ジュルル……

 ねるの顔が上下しているかと思えば、卑猥な唾液の音がするではないか……フェラチオで平手の若竿をしゃぶっていたのだ!

(嘘でしょ––––)

 可愛い顔をしたねるが、おちんちんを咥えこんでいる様子はなんともいやらしかった。平手も平手で、フェラで上下している彼女の頭を愛おしそうに撫でているとは。
 咥えながらわざとらしく見上げる彼女に、女として激しい苛立ちを覚える。そして、いやらしい女に嬉しい顔を見せる平手に、恋する女として失望を覚えるばかり。

 ああ、暑い。出たい。出て、止めたい。
 シャツを思いっきりぱたぱたとあおいだ。もはややけくそで、音など気をつける余裕はなかった。その時だった。
 平手と目が合った。どきり、として凍りつく。
 隣の志田とも目を合わせる。薄暗い空間の中で、目元を照らした彼女のどきつい目は、丸くなっている。

お前、まずったぞ。

 そう訴えていた。
 シャツを仰ぐんじゃなかった。後悔したが遅い。私と志田は息を呑む。

ピロン

 淫らなムードを裂くように、通知音が響いた。
 私の心臓が跳ね返った。慌ててズボンを確認したが、こいつに電源を切られたことを思い出した。
 通知音の音源は平手のスマホだった。証拠に、平手は青褪あおざめた顔でねるから離れて、慌ただしく電話に出ている。
 パニクっているのだろう、下半身を露出したまま狼狽うろたえながら通話している姿は滑稽こっけいだったが、笑えない。こちらまで、まさかの展開に息を呑む。

「梨加ちゃん」

 通話相手は、平手の恋人、梨加だった。
 もしや、平手と渡辺は知らぬうちに別れて新しい女––––ねるとくっついてるだけだと思ったが(若い子は特にそういう傾向にあると思われる)、会話からして違うようだった。

 平手が歪んでいく。しょっぱい味がしたと思ったら、私はいつの間にか熱い涙を流していたようだった。閉まりきっていない蛇口から零れる水のように、止まらない涙が頰を伝う。たまらなかった。

 視界の端で、何かが動いたのが見えた。どうせ、エッチで男好きなねるのことだから、電話中の平手に意地悪するようになにか仕掛けていることだろう。
 ほうら。私の予想通りの展開になった。

 志田を見やると、こいつは口をぽかんと開いて呆然として覗いている。
 いくらメンバー弄りで有名な彼女でも、こればかりは流石に悪い冗談だ。まさかここまで、人が傷付くことくらい分からないガキとは思わなかった。
 ポケットに手を入れているのが、いきがっているようでなんだか腹立つ。

 急に、闇になった。光が遮られたらしい。ねるが立っているようだった。

 

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