野良猫とばいばいしたあと、商店街に戻ってショッピングの続きを再開する。気分が晴れた私は、いつも通りにデートを楽しんでいた。茜の顔がいつになく不機嫌だったのを除いて。
「あのぉ……なんかしましたか? 私」
「別に」
彼女は、まるでパリコレモデルのような、温度を感じさせない冷たい表情で答えた。
(うわうわ、これは間違いなく不機嫌! どどど、どうしましょ……)
慌てて茜の機嫌をとるように、抹茶アイスやら八ツ橋クレープやら、プレゼントするも一向に顔色は良くならない。それどころか「太らせたいの!?」と怒らせてしまった。
好きな人が恋していることが分かって、さらに、好きな人を怒らせてしまう––––あまりにも散々な一日に、恋の神様に愚痴垂れたばちが下ったに違いないと思った。
(ううぅ、あんまりですよ、恋の神様……)
私の心の中は雨模様。眉と口がみるみる下がって泣き虫発動するのを、なんとか抑える。嫌われたくない一心だけで彼女を引き止めた。
「ごめん! ……ごめんね? なにしたかわからないけど、私、なにかしたんだよね?」
茜はため息吐いたあと、唇を尖らせて、拗ねた表情を作って言った。
「違うよ。……さっきの野良猫に妬いただけ」
心の中で雨が止み、涙が引っ込んだ。
「え! ふふふ、可愛い!」
「もう、嫌い。来ないで」
茜はつん、とそっぽ向いた。また雲行きが怪しくなる。私の眉と口が下がりだした。
「そ、そんな。嫌いは傷付くよ」
「だって、こんな可愛い彼女が話しかけてるのにさぁ。彼氏は猫に夢中だしー」
〝彼氏〟〝彼女〟というワードに、怪しい曇が一気に吹き飛んでいく。心の中では、久しいお日様の到来に、蕾が一気に咲き乱れて、鮮やかなお花畑が広がっていく。
(ああ、彼氏だなんて……死んでもいいかもしれない。私を浄土に連れてってください、恋の神様––––)
ぽわぽわと恋のエクスタシーに浸っていたら。不貞腐れモードの茜と、乙女モードになっている私。そんなシュールな光景にはっと我を取り戻した。
ぶんぶんと頭を振って、平常心を取り戻す。
「ごめんなさい、なんて話したの?」
「猫と私、どっちが可愛いって訊いたの!」
茜はじっとこちらを睨んできた。そんな拗ねている彼女に愛おしさが溢れるあまり、目を細めて答える。
「茜」
「えっ、なに」
「茜の方が可愛いよ。誰よりも」
(ちょ、ちょっと待ったぁー! ななな、なにを言ってるの、私!)
ポップコーンのように弾ける想い。心の中のお花畑からのエールが止まらない。
茜は、ぽかんと口を開いていた。それから、みるみる顔を赤くして、しまいには俯いてしまった。今度はどういうわけか、茜の方が泣きそうになっていた。
私は失礼なことを口走ってしまったのだろうか。自分でもわからなかった。ただ、どうしたらよいか分からず、泣きそうな彼女を前におろおろするだけ。私たちを避けるように観光客が通り過ぎていく。
「もう、帰ろ」
ややくぐもった声で返ってきた。顔を上げた茜の瞳が潤んでいたのに驚いた私は、間抜けに答えるしかできない。
「あっ、はい」
(泣かせるつもりはなかったのに……完全に気持ち悪がられたよね。もう駄目だぁ)
再び、怪しい雲の到来に、お花が一気に蕾に戻っていく。
踵を返した茜に、そのままついて行く。後頭部しか見えないが、さっきの泣き顔が頭から離れられない。泣いてたらどうしよう。
そうこう考えているうちに、茜が歩いているのは、駅とは反対の方向だということに気付いた。しかし、指摘するのもなんだか勇気なくて、黙って後をついて行く。
リードを引かれるように引っ張られた幸せな瞬間が、遠い思い出のように感じた。
名前, thanks so much for the post.Really thank you! Great.
インターチェンジ面白すぎて一気に見ました!
次の更新はいつですか?
待ってます!!