初デートの巻

 次は禊祓みそぎはらえ場に寄った。
 禊祓清浄御祈願といって、縁を断ち切る禊祓いの場で“縁切り”を祈ると叶うパワースポットらしい。はらい清めたい事柄を祈願用紙に書いて、水面に浮かばせれば悪縁と断ち切れるとか。
 水鉢に「上司からのセクハラ」と書かれた札が浮かんでいたのを見つけて、お互い顔を合わせて苦笑いを浮かべた。

 祈願用紙を受け取るないや、茜から隠れるようにこそこそと書いた。
 断ち切りたいことは書き終わった。あとは、名前を書くだけだ。「菅井友香」の、「菅」の、草かんむりすら書き終わってないところで。

「ねぇ、なに隠してんのー?」

 茜が私の後ろから覗くように抱きしめてきた。背中にやわいものが当たったのを、神聖なる場にそぐわぬ不浄な気持ちが湧き上がる前に、慌てて茜と向き直る。

「いやいやいや、ちょっと」

 サッと用紙を後ろに隠す。しかし、茜はそれでも諦めずに「見せなさいよ」と正面から抱きしめてきたのだ。私の後ろを覗き見ようとする度に柔いものが押し付けられ、不覚にも股間に血が昇りはじめる。

(だめ、だめ、だめ! ちょっと、神様が見ていますよ!)

 彼女はきっと答えを見るまで詰め寄ってくるに違いない。それでも、私が頑なに折れなかったのを彼女は不審に思ったのか。

「まさか……私じゃないでしょうね?」

「そんなわけ!」

 慌てて否定すると、竹の隙間からびゅうと強い風が境内を吹き渡った。

「あ」

 その拍子で、私の祈願用紙が飛ばされてしまった。私の思いはひらひらと風に舞いながら見えなくなっていった。まるで、境内から追い出されるように。

「もードジ!」

 茜は不満そうに唇を尖らせているが、私はどこかほっとしていた。
 彼女はねた様子で書き終わった札を水面に浮かばせて、それから祈った。チラリ、と覗く。裏側のため文字が反転していたが、一文字目の漢字は私をいつも悩ませていることだからすぐに分かった。そして、後に続く文字もカタカナなので容易く視認できた。

『恋のライバル』

 ギョッとして、おそるおそる茜を確認する。目を瞑って両手を合わせて拝んでいる彼女は、穏やかに微笑んでいた。
 疑惑が確信に変わった。内なる私がポンと手を打って「なるほど! 茜も恋しているんだね!」と仰々ぎょうぎょうしくリアクションしている。

(はぁあー……)

 想いを寄せる人は、おそらく、モテる殿方だ。誰だろう、ジャニーズか、それともエグザイルか、もしくはモデルか……。色んな殿方を思い浮かべていくという負のスパイラルに陥ってしまい、苦しくなった。
 茜が浮かべた祈願用紙が沈んでいったように、私の心も沈んでいく。念願のデートだったけれど、今すぐにでも帰りたかった。

(やはり、結局モテるのは紳士ではなくて、チャラい人なんだよ……)

 私は下らない理屈をねながら、そう結論づけた。

(いえ、そもそも貴女は女なんですよ。女は男に惹かれる。これが自然のことわりであり、現実なんです)

 ため息をついた。魂も一緒に出た気がした。

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