愛撫の刑

 握手会の後、私はホテルのツインルームに独りでいた。
 やけに広く感じるツインルームで一人寂しく宿題をやっている––––のだが、進捗しんちょく状況は最悪だった。空欄のまま綺麗な宿題のプリントを前に、頬杖ほおづえをついたままペン回しをする。ペン回しは頭が馬鹿になるからやめなさい、と母から止められていたが、今日は、いや最近は、どうも考え事をしてしまう。

 クルン、クルン、と回す。失敗した。手から滑るようにシャープペンシルが転がる。再度、シャープペンシルを取ろうとした––––はずの手が、勝手にマーカーを取っていた。黄色の蛍光マーカーを握り、意味もなく辺りを見回す。確認するまでもなく、部屋には私一人だけだ。
 おずおずとショートパンツのパジャマを膝辺りまで下ろし、先端が丸いキャップの方を自分の股間に持っていって、パンツの上からそっと撫でるようにこする。尿意をもよおすような、熱い痺れがゆっくりと広がっていく。

(あぁ……あー……)

 あの日から私はずっとおかしい。勉強も身が入らず、考え事をしているうちにペンでアソコを擦るようになったのだ。学校では絶対に教えてくれない“気持ちいいこと”を覚えていった。同級生も、メンバーたちも、このような“気持ちいいこと”をやっているのだろうか。
 マーカーでグッグッと押し付けながら、机に顔を伏せて、理佐が私のアソコをいじめてくるところを空想する。息を大きく吸い込むと、プリントからインクの匂いがした。

––––葵、ここ数日でいやらしい子になったね。どうして欲しいの?

 理佐が形のいい唇の端を上げて、サディスティックに微笑むのを想像しただけで、エッチな気分になってきた。

(理佐ぁ。もっと、いじわるしてよぉ……)

 これまでは勉強とアイドル業しかなかった私の脳内が、今やすっかりエッチなことで占められている。
 私の脳みそはジュレと化して使い物にならないに違いない。宿題が進まないのが、何よりの証拠だ。そして、この“気持ちいいこと”は、ペン回しと比にならないくらい馬鹿になる行為だというのは確信している。頭がジンジンしているのが、何よりの証拠だ。

(ああ、次のテスト、大丈夫かなあ……)

 一抹いちまつの不安がよぎるが、それでも突端とったんにマーカーを擦りつける手はやめない。
 理佐が私のパンツをぐように下ろして、華奢きゃしゃな腕で抱き寄せて囁く。

––––葵。もっと“気持ちいいこと”、教えてあげる。

 理佐の股間には“丘”ができていた。
 背中に悪寒おかんのようなものがいずるのを感じ、ぞわぞわと肌があわ立っていく。鼻から大きな息が洩れて、プリントが机の端へと滑るように飛ばされる。

(やだぁ、もう、理佐のおちんちん……)

 処女にとって、最大の関心はやはり“おちんちん”である。
 この間に見た、理佐の股間の丘がどうしても頭から離れられなかった。私の脳みそをジュレ化させている大きな原因がそれだった。
 あれは、保健体育の授業で習った通りなら「勃起」現象だろう。男性が性的興奮を覚えると、男性器が大きくなるのが勃起のメカニズムだそうだ。

(理佐のおちんちんも大きくなってた、よね……?)

 ペニスの断面図が乗った教科書から意識をらし、理佐との情事の妄想を膨らませる。
 綺麗な顔、形のいい唇、やや骨ばった指、引き締まった体躯たいく、そして、股間の丘。これらの興奮材料を思い浮かべなから、一人で何度も“気持ちいいこと”を繰り返してきた。
 理佐が丘を作ったズボンに指をかけ、脱ごうとした時––––。

コンコン

 現実のノック音にはっと我を取り戻した私は反射的に机から顔を上げて、マーカーを机上に放り投げた。しかし、なんだか気まずく感じてしまったので、わざわざ筆箱の中に入れ直す。
 急いでドアのところへ向かった途端、バランスを崩してコケそうになった。そこで、ズボンが半脱ぎ状態だったのを思い出す。危うく間抜けな姿をメンバーにさらけ出すところだった。慌てて引き上げて、勢いよくドアを開ける。
 ドア前に立っている人を見て、私の心臓が甘く鳴った。

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