初デートの巻

 嵐山駅は改札口が無く、電車を利用しない人でも自由に構内を歩けるようになっていた。そんな風変わりな駅を散策してみると、ホームの先端の方に湯気が立ち上っているではないか。

 近づいてみると、湯気の正体が姿を現した。足湯だった。予想通り茜は「きゃあ、温泉! 入ろうよ!」と、興奮した様子で私を揺すってきた。
 カウンターにて茜の分もあわせて利用料金を支払い、「駅の湯」の文字が刺繍されたオリジナルタオルを受け取って、靴を脱いで湯に浸かる。芯から温まって、肌が粟立あわだつ。

「昨日はずっと立ちっぱなしで疲れたよね~」

「ねー、ほんとに」

 足湯には、私以外に客がいた。四〇、五〇代で旅行者の方々だろうか。ジロジロと私たちを見ている。もしや素性がバレたのでは、とかすかな期待を抱くも「あなた達、べっぴんさんねえ」と普通に話しかけてきたので、自意識過剰の自分に恥ずかしくなった。
 素性はバレていないのは少し残念だが、容姿を褒められるのは素直に嬉しい。でも。

(これ絶対、茜に言ってるよね)

 私たちは一緒になって、手を振って謙遜けんそんする。しかし、茜のほうは嬉しい感情がただ漏れなのが、緩んでる顔から見て取れる。そんな正直者なところが、ますます愛おしい。
 ここ最近、彼女が爆発的に綺麗になった理由のひとつとして「恋している」お陰だと思うと、胸に切なさが迫る。湯が温かいのがかえって感傷的にさせて、涙が滲んでしまう。

「よーじやにはもう行った?」

 もう一人のおばさまが訊く。

「いえ、まだで。有名ですよね」

 茜が答える。

「そうなの、行かなきゃ損だよ。あそこの「まゆごもり」がお薦めで……」

 美容の話題で盛り上がっている傍らで、野良猫だろうか、ムスッと不愛想な猫が傷心の私を慰めるように、そばに座ってきた。

「可愛い~。私のこと……」

(慰めてくれるの?)

 感傷的になっていた私は、野良猫に対して「お互い一人ぼっちだね」なんて勝手に共感を抱いていた。もはや、メンヘラである。
 同志・・を撫でると気持ちよさそうに鳴いた。

「(ねえ私、失恋しちゃったぁ)」

「(そうか。もしかして、お前の隣にいる女の子かニャ?)」

「(そう! どう? すごく可愛いでしょ)」

「(うん、可愛い。こりゃ男がほっとかないニャ)」

「(うぅ、だよね……わかってるよ。うん)」

「(まぁ、それも人生ニャ)」

「ねぇ……」

 茜が私に何か話しかけてきたが、私は同志とのやりとり(もちろん私の妄想である)に夢中だった。
 動物のパワーはすごい。温泉以上に癒された私は、ちょっと立ち直れたような気がした。

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2件のコメント

  1. インターチェンジ面白すぎて一気に見ました!
    次の更新はいつですか?
    待ってます!!

    +1

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