初デートの巻

 列もゆるやかながら進み、ようやく境内けいだいに入れた。
 まずは、手水舎ちょうずやで手を清めなければならない。それが神さまに対する礼儀だ。しかし、見るところには、観光客は適当な作法で手を清めているではないか。別にどうということはないものの、作法を心得てる人がここまで見当たらないというのも少し残念な気はする。

 これじゃばちが当たりますよ、と心の中で呼びかけながら柄杓ひしゃくを手に取ると、作法通りに手を清めている姿が目に入った。目に入ったというより、目立った。隣の子––––茜だった。
 私が礼儀作法にこだわりがあるというわけではないが、できている人はやはり美しく見える。彼女のしっかり教育されているところが、また好きになっちゃう。

(やっぱり好きだよ、茜……)

 

 本殿の野宮大神に拝礼を終えると、授与所に並ばせているお守りが目に入った。“縁結び御守り”や“子宝御守り”などといった、恋愛関連のお守りがメインに置かれている。
 他にも“交通安全”もあるが、普段はバスやタクシーで移動する我々にはまるっきり不要だ。それに、ここまで来たのならば買うのは“それ”しかないのである。

「買わないの? その、お守り……」

 茜に不純な質問を投げてみる。
 茜は「んー」と可愛らしく首を傾けながら、少し考えるような仕草を見せた。

「欲しいけど、心の中でしまっとく。だってアイドルだし!」

 お茶目な彼女は、ちろりと舌を出して笑った。
 最後の含みある一言が、私の胸を痛ませた。

(あー……はあー……)

 縁結び神社で参拝者が舞い上がっている中、場違いな人間にならないよう、無理やり笑顔を浮かべた。

 恋するみんな、ラララ気分。恋する私、トホホ気分。

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2件のコメント

  1. インターチェンジ面白すぎて一気に見ました!
    次の更新はいつですか?
    待ってます!!

    +1

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