嵯峨嵐山駅に着くと、古都という雰囲気をあまり感じさせない、地味な風景が広がっていた。
「ここからちょっと歩くけど大丈夫?」
茜の靴に視線を落とす。彼女のは、サンダルタイプのウェッジソールだった。自分のは踵が高くないタイプのモンク・ストラップだからいいものの、彼女には辛い思いをさせてしまわないだろうか。あまり歩かせるのは紳士のマナーに反する行為とも思えた。
「平気に決まってんじゃん。テニスで鍛えた私をあまり見くびらないでよ」
今の気遣いが、彼女の負けず嫌いな性格に火を点けたらしい。茜は強気に腕を組んで、顎を上げてドヤ顔で言った。
感心、そして、安心した。デートするなら元気な女性が一番だなぁ、とうっとりと目を細める。
「さ、友香のデートプランをうかがいましょうか!」
挑発するように掌を広げて突き出してきた。
私は、よくぞ聞いてくれました、とばかりに自信たっぷりに胸を張る。
「じゃあまずは野宮神社に」
「えっ、神社?」
茜の顔が曇った。満ち溢れていた自信がすっかり萎み、声が尻すぼみになる。
「な、なんか、恋愛成就で人気だとか……」
茜の顔が晴れた。
「えーそれ早く言ってよ! 今から行こ! 早く!」
想像通り、食いついてきたのが嬉しくなる。
「早く早く~、恋愛運が逃げちゃう前に!」
今度は、とろい牛を無理矢理押す飼い主のような茜に、急かす形で背中をぐいぐい押されながら目的地へ進んで行く。悪くない。
「恋愛成就って、どのくらい効果あるのー? 本当に叶っちゃうわけ?」
「野宮神社だっけ? パッとしない名前の割にはロマンチックじゃん、ね!」
「どんな場所だろ? ピンク尽くしだったりして」
道中の会話は、茜から野宮神社の話を一方的に聞かされるばかりで、マスカラで強調されたパッチリおめめには、ハートが浮かんでいる気さえした。
茜の想像以上の食いつき具合に、彼女にも好きな人がいる疑惑がよぎってしまう。
「あと、一〇分くらいで着くよ」
私は作り笑顔で、余裕を装って見せる。内心では、デートプランに野宮神社を加えたことを後悔しはじめていた。
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