初デートの巻

 予想外の言葉だったのか、茜は一瞬遅れて戸惑いを見せた。それから、メンバーの誰もが見たことないだろう、ひどく弱気な顔を見せた。さっきまでの威勢はどこへやら。

「なんか無理強いしてるみたいじゃん……」

 私の胸元から力なく手を離して、そのまま歩き出した。私の足は、しっかりと茜の影を踏んでいる。もう、離さない––––。
 茜の肩を掴んで、こちらに向き合わせる。

「いや、そうでもしないと男がすがるんで!」

 胸に拳を当てて、顔をキリッとさせた。もちろん、いたって真面目だ。

「……男なの?」

 茜の冷静なツッコミには答えない。いや、答える余裕がないというほうが正しかった。

「ともかく。茜さん、あ、いや茜」

 意気込んだわりには、しどろもどろになってしまう自分に嫌悪がさす。告白ってこんなに緊張するものなのだろうか。
 自分は欅坂46の一員で、アイドルで、年長者で……。

(えぇい! もうどうにもなれっ)

「好きです! ずっと茜のことばかり考えてて……」

 情けないことに私は告白早々、唇を震わせながら目に涙を滲ませていた。茜の顔が涙で歪んでよく見えなかったが、陽に照らされる切なげな表情は絵になると思った。

「気持ち悪いでしょうが、私はこんなに! こんなに……!」

 これまで誰にも言えず我慢していた分、せきを切ったように「好き」が溢れ出すあまり、ろくろを回すのも大きくなってしまう。
 とうとう涙が溢れだしてしまった。もしかしたら、はしたなく鼻水も垂らしているかもしれない。行く人が、怪訝そうに私たち二人を見てくる。

「私は、茜のことが! しゅっ、好きなんです!」

 肝心の告白で噛んでしまったが、それでも続ける。

「好きです! 大好きです! たとえ、茜に好きな人がいてもいなくても……苦しいぐらい好きです!」

 言った。言っちゃった。言ってしまった。
 心臓が、山びこのように響き渡るくらい、鳴りっぱなしだ。
 茜は優しく、ティッシュで目、頰、それから鼻を拭いてくれた。

「ほんと、馬鹿なの? もうほんと……」

「ごめん。でもこれが私の気持ちで……」

 私の手を取って、指を絡ませてきた。恋人繋ぎになった。

「分かった、友香が私のこと好きなのは分かったから。帰ろっか」

 彼女は余裕そうに見せているが、嬉しさで綻んでいるようにも見えた。

「うん」

 私は貰ったティッシュで涙を拭いながら、茜に引かれて行った。結局、茜が王子様の構図なのが情けなくなるし、悔しくもなるが、私にかっこつけるのは無理なんだなと分かった。
 手繋いでる間は心臓がまだ興奮冷めやらぬ状態で、けたたましく鳴っていたが、心地よくもあった。緊張がほぐれていくのを感じた。

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2件のコメント

  1. インターチェンジ面白すぎて一気に見ました!
    次の更新はいつですか?
    待ってます!!

    +1

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