「なぁ、ずみこ。あんた、フツーにかわいんだからさ」
不意打ちの褒めをもらい、戸惑う。
「ずみこに相応しい人、きっと現れるよ」
志田は平手と凄く仲が良いことを思い出した。しかも、こいつは何故か、平手の前だと変にかっこつけるところがある。
まさか、こいつも平手争奪戦に加わっている一人で、少しでもライバルを減らそうと企んでいるのでは。
思う前に、探りを入れていた。
「てっこのこと、嫌いなの?」
あえて好きとは訊かない陰湿な自分に、心の中で呆れる。
志田はきょとんとした。
「いんや。え、なんで? 大事な仲間だよ。むしろ、弟みたいな?」
もう一度、記憶を手繰り寄せる。
デビュー当初、渡辺とずっとつきっきりで仲良かったのが、平手という恋人が出来てからは距離を置くようになった志田。
確信した。
こいつは、渡辺のことが好きなんだ––––。
「でも、これだけは言っとく」
瞳はまっすぐだ。
「平手は、やめとけ」
志田は、私が知っている“いい友達”ではなかった。
何を考えているかわからないけど、人に好かれるような計算もなく、素直な気持ちをぶつけてくる。それがたとえ、私の欲しい言葉ではなかったとしても。けれど、胸がじんじんと熱くなっている。私は、嬉しいと感じていた。
コンコン
突然のノック音にびっくりした。
「佑唯~?」
ドアの向こうから小林の声がした。
「ほら、来た。 “相応しい人”が、ずみこを探してるよ。さっさと行ったら?」
(志田は、よくわからない。本当に、わからない)
さっきまでの真剣であれど優しさをたたえた目が、なぜか不機嫌そうに吊り上っている。
(優しいと思ったら、冷たくする)
「なによ……理佐と毎晩しけこんでるくせに! 性欲おさるが、偉そうな口叩かないで!」
(そして、不覚にも、志田にときめいてしまった自分のこともわからなくなった––––)
私と志田は、水と油かもしれなかった。不機嫌な目を見ただけでカーッと血がのぼった私は、くすぶっていた怒りをぶちまけるように、こいつにはっきりと言い放った。
理佐のことを平気で持ち出せたのは、セックス現場の目撃体験を共有していたからかもしれなかった。
踵を返して小林のとこへ向かうところだった。
コンッ
「った!」
頭に何かぶつけられた。それはカンカンという音を立てて床に転がっている。モンスターボールのカプセルだった。
「はぁ?」
キッと振り返ると、志田は投げたポーズをしていた。
「悪ぃ。なんか、つい」
(はあぁぁぁぁぁぁ!?)
「意味わかんな! ばぁーか!」
そんな捨て台詞を吐いて、乱暴にドアを開けた。
(ほんとなんなんだよ、あいつ!)
勢いよく開けられたドアに、驚いたらしい小林は目を丸くして、反射的に後ずさっていた。ごめん、の一言をかける余裕ないくらい、むしゃくしゃしていた。
(嫌い嫌い嫌い、大っ嫌い!)
悔しいことに、私は泣き虫から卒業できないらしい。また涙が溢れ出す前に、小林に抱きついた。
後ろから、顔も見たくないあいつが近づいてくる。
「すまん。こばの好きな子、泣かせちゃった」
志田は小林の肩にポン、と手を置くと、どこかへ行った。
小林は心配そうな声で私に訊いた。
「佑唯、愛佳となにかあった?」
私は何も答えないかわりに、嗚咽を漏らしていた。
誰にも言えない秘密を、また志田と共有することになるなんて––––。
続きが気になります😭