こじらせ系女子

酒を飲みたい気分だった。
未踏のバーに行ってフルーティーなカクテルを飲んでいると、私の元に声が掛けられた。

「ヘイ! ホットガール! 一人かい?」

話しかけてきたのは金髪碧眼の欧米人の男性だった。

「ハーイ! イエス!」

本格的に英会話の授業に真面目に参加してた甲斐があったわ、この時のためにあったのね、と私は学業もおそろかにしなかった自分を褒めた。

「ワォ! 君を一人にさせるなんて、世の男たちは見る目がないな。ハハハ」

外人さんでなかなかの男前な上、筋トレに通っているのが伺える逞しい身体。そして、センスのある甘い言葉。初体験相手には相応しいじゃない。内心、ヨッシャとガッツポーズする。

しばらく歓談しているうちに時間が来てしまった。「帰らなきゃ」と言うと、外人は「Oh!」と残念そうな表情を見せた。素直で可愛らしいなあなんて思っていると、両手で拳を作って差し出してきた。

「どっちか選んで! この後……ハングアウト オア マリッジ?」

ウィンクしてきた。彼はきっとそうやって口説いてきたのだろう。悔しいけど、その甘い言葉で私はときめいてしまった。

 

バーを後にすると、自然に私の肩を組んできた。これも外国人のスキンシップだとは分かっていても、ここまで密着するとは思わなかった私は緊張で体を強張らせる。さっきまでおしゃべりだった私たちはいつになく静かだった。屈託のないスマイルを向けてくる彼に、私はぎこちない笑みで迎える。

気付くと、路地裏に連れてこられていた。油っぽい水たまりに、ネズミがそこらを徘徊はいかいしていた。どこからか猫の鳴き声が聞こえる。思わず顔をしかめた私は彼を一瞥いちべつすると、いきなりキスしてきた。

「んっ!」

突然のことに驚いた私は抵抗するように相手の肩を叩くも、相手は興奮しているようで舌を侵入させてきた。すっかり興奮のスイッチが入った彼は、私を乱暴に壁に叩きつけて、乳房を思いっきり揉みしだいてきた。耳たぶに容赦無くかぶりついてきて、私は思わず悲鳴をあげる。

「あぁっ! 痛っ!」

スカートの中に手が入り、パンツの上から無遠慮に撫で回してきた。

「嫌っ! やめてっ!」

(そんな、初めてが路地裏とか嫌!)

「アカネ! 興奮するだろ?」

外人はおもむろに自分のズボンのベルトを外して下げると、みなぎらせた男性器が飛び出した。初めて生で見る男性器にしては、あまりにも凶暴すぎるサイズに、私は完全にひるんでしまった。
彼の手が私の頰に触れた瞬間、隙を突いて彼の手を掴み、背負い投げをお見舞いする。外人の巨体を持ち上げるのに力を要したが、思いっきり地面に叩きつけることに成功した。

「シット……」

相手がうずくまっている隙に、ほうほうの体で私は逃げ出した。

(外で行為に及ぶとか無理!)

後ろを振り返らずにハイヒールの靴音を響かせながら駆けた。ネズミやゴキブリたちが驚いて一様に逃げ散っていく。道中でハイヒールの踵が折れても、御構い無しに必死に無様な格好で逃げ続ける。
やっとの思いで人通りに出ると、膝に手をついて項垂れ、肩を激しく上下させながら息を切らせる。冬なのに汗だくの私を、通りすがる人が不思議そうに見てくる。屈辱で涙が滲んだ。

そういえば平手の初体験は山の中って言ってたっけ、なんてどうでもいいことを思い出していると、FBアプリから友香のアカウントに新しい投稿がされたという通知が来た。機械的に通知をスワイプする途中で思い止まり、動作を止めた。投稿には私が知りたくないような内容が記されている可能性が高かったからだ。
意を決してスワイプする。嫌な予感は的中した。

 

「皆さま、お久しぶりです。お元気ですか? 突然ですが、報告させていただきます。私、菅井友香は結婚いたします! 名前は」––––。

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