こじらせ系女子

結局、私たちはエスカレーター式で高校に進学した。青春を謳歌して楽しい高校生活を送っている中、転機が訪れる。2年生の頃、私のクラスに転校生が来た。

「志田愛佳です。趣味は一人旅っす。よろしくおねがいしまーす」

転校初日に茶髪にピアス。気だるい自己紹介がなんとも気に入らなかった。しかしながら、端正な容姿に背の高さ、際立つルックスに教室は静まり返る。彼女が放つ独特のオーラがクラス全体を支配していた。
しかし、堂々と校則違反している彼女。我々、生徒会の出番だ。ところが、友香はそこまで執着していない様子だった。それどころか、彼女のアウトローじみた生き様に興味を抱いているような気さえした。
にこやかに「まあ、いいんじゃないかな? 今のところ迷惑かけてるわけじゃないんだし」と、言い出す始末。

「なによ、ビビってるの? 怒られるのは私たちなんだからね! ほんと頼りない。私が行く」

昼休み中、私は大股で愛佳の元へ歩いた。

「愛佳さん、髪色似合ってるけど校則だから戻してね」

昼休み中、持ち込み禁止の携帯ゲーム機をあぐらかきながらプレイする志田に笑顔で注意する。志田は欠伸あくびを一つしてから「あーこれ? 地毛なんでー。アローラ出身のハーフなんで」と、怠そうに答えた。

(アローラ……? そんな国名あったっけ?)

「あと、その呼び方やめてくんね?」

「愛佳? 可愛い名前じゃない」

「それ、きもいから」

苛立った口調で「じゃあ、なんて呼べばいいの」と聞くと「クロエ」と返ってきた。

(なんなのこの人! 調子狂うんですけど!)

「ではクロエさん。ハーフなのね、でも生え際が黒いけど?」

私は笑顔をひくつかせながら、矛盾を指摘する。しかし、志田は全く効いていないようで反抗的な態度を崩さなかった。

「なんで染めちゃいけないの? あんたも所詮しょせんルールに縛られて生きる日本人か……」

「あんたね! いい加減に……」

友香が頭に角を生やす私を押さえて「まあまあ、先生の話って凄く長いので呼び出されたくなかったら早いうちに戻すことをお勧めしますよ~」と、志田に穏やかに言った。

今では私の理解者となっている彼女だが、当時は仲がすこぶる悪かった。彼女が新潟出身の純日本人だということを知るのはすぐのことだったかな。あと、当時は厨二病こじらせてた、と後から告白してきた。今でも「日本に縛られない生き方をする」とかいう理由で世界各国を旅してるあたり、充分厨二病とは思うけど。

転校初日から志田の女性人気がまたたく間に広がり、我が校の“王子様”は高校入学から一緒になった外部生の渡邊と転校生の志田の2強となった。彼女たちの人気っぷりは二人のファンクラブができ、ファン同士がいがみ合うほどだった。

文化祭。私のクラスの出し物は演劇に決まった。脚本は“お姫様を救う王子様”というベタな物語だった。これまでは私がお姫様で、王子様は友香と決まっていた。しかし、渡邊と志田の登場により王子様候補は彼女たち二人のみとなり、友香は出る幕ではなかった。
最終的には、渡邊が大根役者ということもあって、王子様役には志田が選ばれることになった。
中学とは違い、高校ならではの恋愛における演出もレベルアップした。例えば、キス描写があることとか。

「えー、茜とキスすんの? 嫌なんだけど」

志田は頭を掻きながら怠そうに答えるという、王子様役に似つかない態度をお姫様の私に見せた。

「……どういう意味?」

自分のことを拒否されるのは初めてのことだった。若いプライドが許せなかった私は思わず、声に強みを入れて問いただした。

「だってお前、小悪魔って言われてっけど……」

一拍を置いたあと射抜くような視線を私に向けると、ニヒルな笑みを浮かべた。

「ぶっちゃけ、キスしたことないっしょ?」

図星を突かれ、カッと顔が赤くなる。

「そんなことないよー、茜ちゃん凄いモテるし」

「ねー、志田謝りなよ」

「転校生のくせに感じ悪い」

次々と私の取り巻きが庇うように、志田を攻撃し始める。

「キスしたことぐらいあるし!?」

精一杯虚勢を張って、腕組みしながら強めに答えた。

「ふーん。じゃ、さっさとキスしてよ」

唇を指差しながら返答する。その余裕っぷりから、私とのキスをなんとも思っていないのが悔しかった。

「ほ、本番だけね。それまではお預けだから」

相手のペースに乗られるものですか、と強がって答えた。できるだけ図星なのを表面に出さないように。

「きゃー茜! おっとなー!」

「茜ってば、さすが慣れてる感じ!」

 

 

 

私たちはギクシャクしながら練習を重ね、文化祭当日を迎えた。アクシデントもなく、劇は順調に進んだ。ラストシーンに備えて、私と志田が舞台裏に控えていた時。

「お前、ボロのこと好きだろ?」

志田が不意に訊いてきた。

「別に……普通だし。というかその呼び方、可哀想だからやめて」

私は動揺を懸命に隠して答えた。

「両想いの人の前で、私にファーストキス捧げるなんて。ほんっと可愛くねー、彼女にはしたくないタイプ」

「だからなに? 私は普通だっていってんでしょ。というか、アンタの彼女なんてこっちが願い下げだし!」

これからこんな奴にファーストキスを捧げるんだと思うと、絶望のあまり頭を抱えたくなる。

(友香とキスすればよかったかなー……)

「そんなんじゃ、ボロにいつか逃げられるよ」

急にもの恐ろしいことを言われ、不安になる。劇はいよいよラストシーンを迎え、幕が一回閉じられる。

「最後に聞くけど、本当にいいの? なんならフリでも……」

「逃げられるわけないし。いいから黙ってしてよ」

もはや意地であった。ここまで来たらもう後に引けない。私の負けず嫌いの性格が変なところで発動してしまった。

「へいへい。あとで泣いても謝らないから」

幕が開かれ、私たちのキスシーンが始まる。志田はいつもより精が入った演技を魅せつつ、私にチュッと軽くキスした。ワァッと歓声が上がる。悲鳴をあげたり拍手したりする観客の中に、一人だけ拍手をしてない姿が見えた。
これが私のファーストキスの思い出。

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