「どうしたの!? あかねん!」
ホテルから帰り、ぐしゃぐしゃでぼろぼろの私は平手に何も言わず抱きついた。
「そんなに泣かないで、あかねん。入る?」
乱れた服に酒臭女の私を快く部屋に入れて、ホットティーを用意してくれた。私はそれを受け取らずに、平手を抱きしめた。
「どうしたの? ……慰めて欲しいのかな?」
私の頭を撫でてきた。しばらくして、首に指を這わせてきた。私の性欲を煽るような動きだった。
「いいから、もう。お願い、抱いて……」
「え~固いあかねんちゃんから求められるなんて夢みたい」
ニカッと笑う平手は少年のようだった。
「いいよ。嫌なこと忘れさせるぐらい、気持ちよくしてあげる」
平手と初めてキスする。彼女の舌使いは流石、複数の女性と身体を重ねているだけあって慣れていた。多くの人は彼女のテクニックに溺れるのであろう。それでも友香の存在がこんなにも私を苦しめる。
私の気持ちを察したのか、平手は私から離れて言った。
「あかねんが処女なのは、理想が高いからとかじゃなくて––––」
その先に続く言葉は言われなくとも、分かっていた。
「どうしても忘れない人がいるからじゃない?」
もうその答えが全てだった。自覚はしていても、認めたくなかった。幼馴染に、同性に、恋している自分を認めたくなかった。
「その悩み、解決できる方法。私、知っているよ! ……聞く覚悟はいい?」
私は返事しなかった。
「自分の気持ちに素直になってぶつけなよー」
私はこれまで平手のことを下に見ながら、どこか羨ましく感じていた。自分らしく生きている彼女は、常に堂々と彼女を横に歩いていた。だからこそなのかもしれない。同性に恋している自分とつい被ってしまう、同属嫌悪の感情を平手に抱いていただけだ。
私はあの件からずっと、心のモヤモヤが晴れない日々を送ってきた。モヤモヤを抱えたまま、友香のウェディングドレス姿を笑顔で見送れる?
私は出来ない––––
「ありがとう」
平手にお礼を言うと、彼女は「どういたしまして」と、私に軽くリップ音を立ててキスした。
足早で自分の家に戻り、鞄を放り投げてスマホを取り出す。LINE画面に羅列するアイコンの中、好きな人のアイコンをタップした。