私の自慢の親友

 枕を濡らしてる間も頭が咲良のことでいっぱいで、悲しくて切なくて、それでも好きで涙が溢れてくる。目がヒリヒリするくらいティッシュを使った。
 ガチャリと部屋のドアが開かれる音が聞こえると涙が引っ込み、今度は動悸が激しくなった。
 布団が捲られる気配がすると、私を包むように抱きしめてきた。胸が激しく鼓動しはじめる。

なに、友達相手に心臓バクつかせてるんだろ。

 ごめんね、と私の耳元で囁かれた優しい言葉が心地よくて、くすぐったかった。

「別に! 二人部屋に広いベッドで一人でオシャレに泣いてただけだよ」

 恥ずかしくてつい、つまらない意地を張ってしまった。後ろで咲良がふふっと笑った。

「寂しかった?」

 その言葉で私は決壊した。

「うん! 寂しい!!」

 しゃくりあげてきて、呂律ろれつが回らない私を優しく撫でてくれた。

「私も、寂しかったんだよ」

 私の肩に頭を預けながら返す咲良。この時、村重には見えなかったが、咲良は過去の自分を思い出すように遠い目をしていた。
 お互い、過去の夢を見るようにシャボン玉を膨らませて浮かせては、色んな思い出を巡らせていた。
 部屋はいつしかシャボン玉で満ちていた。そのシャボン玉はセピア色に染まりつつあった。

 

 

「はじめまして! 私、杏奈! よろしく!」

「は、はじめまして。私、咲良です……」

欧米人の血を引いたフレンドリーで明るい君。
純日本人で人見知りの君。

まるでオセロのような私達が親友になるのには不思議なことに時間を要しなかった。

加入当初、ずっとべったり一緒にいた私達が、
背が伸びるにつれて、
お互いの距離も広がって、
気が付くと遠いところに君がいる。

私が東京で一人寂しい思いをしてる間も、君はHKT48で楽しく生き生きとしている––––
私がずっと子供やってる間も、君はAKB48でセンターという重き荷を背負って頑張っている––––

それが寂しくて、本当に寂しくて。
何度もタイムマシンがあれば、と思った。

 

 

 ねぇ、と私を呼ぶ声がしてシャボン玉が弾けて現実に引き戻された。

「こっち見てよ」

「やだ、誰かのせいで最高にブサイクだし」

 そう虚勢を張りつつも、結局は言うことに従うことにした。向きなおすと、そこには思い出よりずっと大人びた顔になって、でも鮮明に彩ってる君がいる。

「ひどい顔」

 微笑みつつ、指で私の涙をすくってくれた。

「……まだ拗ねてるの?」

 一緒に居れる心地よい時間に思いっきり甘えたくて、拗ねてる素振りを見せてみた。

「もーごめんて。どうしたら許してくれる?」

 どうもこの人はこの時に及んでも、クールの仮面を被っているらしい。流石、咲良。どれ、その仮面を引き剥がしてやろうか。

「じゃあチューしてよ」

「えっ」

 意外な返答だったのか、黙ったのち、俯いてしまった。ほんの少し暗い布団の中でも、頬の部分が色を帯びていたのが分かった。勝利にも似た優越感に堪えきれず、含み笑いを浮かべた。
 冗談めかしたつもりなのだが、咲良が黙り込んでからしばらく沈黙が破られることも無かったので、こちらまでむずかゆくなってきた。

「もう、子供じゃないんだから……」

 やっと咲良が口開いたと思ったら、これである。終いにはさぁ寝よう寝よう、と逃げようとしてる始末だ。逃がすものか。

「そうやってまたいつものように子供扱いするー! ひどいひどいえーんえーん」

 そう騒ぎ立てた。我ながら迷惑な親友だ。

 「あぁもう!」と困り果てている咲良が可愛くて面白くてニヤニヤしながら見ていると。

「これ、あんにゃにしかやらないから!」

 両手で私の頬を潰して恥ずかしがった割には強引に引き寄せられ、ブチュッとロマンの欠片もないリップ音が布団の中でこだました。驚く間も無かった。ただ、鮮明に残った記憶は咲良の唇が私の唇に触れた瞬間、5アンペアぐらいの電流が身体中を駆け巡ったということだけだった。

 私の顔から離れた咲良の顔は赤かった。色めいた瞳で、はにかみながら私を見つめていた。きっと、私も顔に熱をもっていて、それは咲良にも手を伝って届いてるだろう。
 こみ上げてくる嬉しさと、これ以上見つめ合えない照れ隠しに「いやっほーう!」と奇声をあげてベットの上でトランポリン代わりに跳ねてはしゃいだ。
 隣の部屋から「村重うるさい! いちゃついてねーで早く寝ろ!」と指原さんの怒号が飛んできた。

「寂しがり屋の君に腕枕してやるよ。いい子だ、来い」

「……寂しがり屋はそっちでしょ」

「本当は私のことが恋しくてしょうがないんだろ? そうだろー?」

「ちょと調子乗ってない?」

 おずおずと咲良の頭が腕に乗ってくる。至近距離にいる子はジト目を作って、でも頬を赤く染めて睨んできた。睨んでる割には口が緩んでるよ、と言うと負けず嫌いの君は拗ねちゃいそうなので私だけの秘密にしておいた。

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