声我慢の刑

 次のお仕置きは唐突に起きた。それは別日の握手会の帰り、新幹線に揺られている途中のことだった。腹から膝下に掛けているブランケットの下、脚と脚の間でもぞもぞと動く“丘”を、私は声を我慢しながら見つめている。
 ノーブラ、ノーパンの次は声我慢だった––––。

 

 

 愛知県で開催された、セカンドシングル「世界には愛しかない」の個別握手会の帰り、皆が疲れた顔をして適当に席に腰をおろしていった。
 最初こそは誰と一緒に座ろうか、もしくは、クジで決めたりと、ひそかな楽しみがあったのが、次第になくなってきていた。
 一緒に座れたところで結局は眠るのだから意味がなくなったのだと思う。それと、仲間の存在が友人から家族のような近しいものになったからだろう。最近はほぼ毎日顔を合わせているのだから、なおさらだ。

 運営は倹約家らしい、グリーン車ではなく普通車の指定席を購入したため、自動ドアからは時々人が通っている。
 私は車両の一番後ろで、ねると理佐に挟まれる形で座っていた。窓側の理佐はスマホをいじっており、通路側のねるはよほど疲れているのか、アイマスクを着けた顔をかなり傾けた状態で爆睡している。寝違えないことを祈るばかりだ。
 真ん中の私はというと、本を読んでいた。東京に到着するまで1時間半くらいの退屈な時間を潰すのにはうってつけの趣味だ。

 しばらく新幹線に揺られながらページをめくっていると、理佐がブランケットをかけてきた。夏なのに。クーラーの効きは強いというわけでもなく、むしろちょっと暑いなと感じるくらいだ。

(寒いのかな?)

「ありがとう、でも大丈夫だよ」

 笑顔で断るも、理佐はスマホに夢中の様子で返事はない。疲れているのだろう、無愛想ぶあいそに感じた。仕方なく、ブランケットをどけようとしたところで下肢かしにぞわりと走った。ブランケットの下で私の太ももに温かいてのひらを這わせてきたのだ。

 理佐の右手はスマホをいじっており、左手はブランケットに潜って私の太ももを撫でている。無愛想な態度からは想像もつかない、私の青い性欲をあおる淫猥なタッチ。
 私は理佐が言った「楽しみにしてて」の“楽しみ”の瞬間が今、来たのだと悟った。

「隣……!」

 理佐は話に応じる気は無いらしい。一瞥いちべつもくれずに、スマホに熱中のままだ。左を確認する。ねるは一定のリズムで胸を上下させている。首は相変わらず、凄いことになっている。

 最初に抵抗を見せたものの、内心嬉しくて仕方なかった。ノーパンのお仕置きから長かった。仕事で理佐の顔を見るたびに息が詰まりそうになり、前回のことを思い出しては身体が火照るのを覚えていた。
 寂しく、飢えを感じていた私の身体は、恋慕相手に撫でられるだけで敏感に反応してしまう。

 ブランケットに盛り上がった“丘”はゆっくりと動いており、どことなく卑猥に感じられた。その“動く丘”は私の太ももの上で一定の速さを保ちつつ、スローペースで往復を繰り返している。
 往復は徐々に幅を広げ、パンツの位置まで近づいていることに気付いた。

「や……」

 恥じらいを感じて、声を漏らしてしまった。理佐はスマホに顔を向けたまま、やっと口をきいた。

「葵、うるさい」

 慌てて唇を噛む。ノーブラとノーパンの次は、“声を我慢する”お仕置きなのだ。
 左を向けば目の前には、車両のつなぎ目のドアがある。人が入ってきたら目立つのではないか。さらに、通路を挟んだ向かいの席には眠っているとはいえ、石森と尾関と米谷がいる。私が怪しい動きでも見せたらバレてしまう環境なのがまた、スリリングで興奮を刺激する材料が充分に揃っていた。
 優等生の私にとっては刺激が強すぎたが、むしろ「いい子」の反動で淫らな好奇心には人一倍興味を持っているのかもしれないと思った。その証拠に、不埒ふらちな行いを歓迎するようにうずきを覚えたのである。

 隣が志田ではなく、ねるだったのが唯一の救いというべきか。

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