「ひっ!」
僅かに悲鳴をあげて、くの字の前屈みになった。驚いた車内販売員はこちらを見た。
「今の葵? どうしたー」
前の席から心配した織田が尋ねてくる。
「だ、大丈夫、です……」
なんとか震える声で返事する。仲間相手に敬語になっていたのが可笑しかった。
車内販売員は怪訝な顔を浮かべつつも、ビジネススマイルを見せて仕事に戻った。同時に、理佐の手がゆっくりと愛撫を再開した。敏感な部分を押しつぶすように円を描いている。
背筋がぞくぞくと震え出し、足の裏がきゅーっと熱くなる。初めての感覚に慄いた私はたまらず涙を零した。
「葵」
私の怯えている様子に気付いた理佐が、丘じゃない方の手で涙を拭ってくれた。
「やだ、足の裏が……怖いよ」
上ずった声で周りに気付かれないよう伝える。返事代わりか、チュッと私のほっぺたにリップ音が鳴った。
「怖くない。葵のエッチな姿……私に見せて?」
甘い言葉にうぶな私は易くも心を蕩かす。理佐の虜となってる私に拒否する理由は見当たらない。身も心も理佐に委ねることにした。
理佐はまた狸寝入りを開始して、私の敏感な部分を嬲り始める。
足裏が灼くように熱い。もはや攣りそうすらあった。
理佐の綺麗な顔が間近にあった。焦れた私は唇をぶつけるように、理佐の唇に押し付けた。
「んふ……」
理佐の指の動きが早くなり、私は狂おしそうに熱く湿った鼻息を洩らした。
理佐との刺激的な遊びに歓びを見出した私は、優等生の仮面を脱ぎ捨てて不良街道まっしぐらに駆けていく自分の姿を見た。そして、もう一つの自分の姿を見た。理佐に抱かれている自分の姿を、淫猥ながらも見えたのだ。
女の本能が疼き、自分の本音を雑音なしにはっきりと聞いた。
理佐と繋がりたい––––。
その時だった。理佐はぱっと私から離れて、背けるように寝はじめたのだ。あまりにも突然で、これも理佐お得意の焦らしプレイの一環なのだろうか、と一瞬考えた。
私を拒否されたようでショックを受け、高揚していた気分が急速に萎んでいく。
(え……なんで?)
どうしてやめるの、と訊こうとしたのを噤んだ。私もようやく状況の変化に気付いた。
隣のねるが大きく伸び、ひとつ可愛らしい欠伸をしていた。
「トイレ行ってくるぅ」
アイマスクを外すと、ぱっちりと垂れ目が現れる。彼女は席を立ち、目の前のドアを通って消えていった。
興奮冷めやらないうちにまた理佐に向き直って話しかける。それでも返答がしない。未だに狸寝入りを続けているのか。それとも、本当に寝てしまったのだろうか。
「なんでそっち向くの……? ねぇ、こっち向いてよ」
「やだ」
起きていたようだった。
「冷たくない?」
「うるさい」
冷たい。
「こっち向いてってば!」
「なんなの!」
理佐は少し切れ気味とはいえ、向かい合ってくれた。その拍子にブランケットがずり落ちた。私は違和感を覚えた。理佐の履いているズボンの、ちょうど股間の部分に“丘”ができていたのだ。
私はしばらく丘を凝視していると、軽くビンタされた。
「トイレ行ってくる……」
理佐はかなり恥ずかしかったのだろうか、目を合わせないようにそそくさとトイレへ向かった。
私は理佐の背中を見送ったまま、呆然とする。さきほどの現象はなんなのか。理佐の丘の映像がさっきから私の頭の中を占領している。繰り返し見れば見るほど、私の股間はなぜかきゅんと熱くなる––––。