「理佐」
理佐はスマホをいじっている。無視された。
「理佐」
涙声で訴えてみるも、まだスマホをいじっている。また無視された。私は昂りを抑えきれず、理佐の肩を揺すった。
「理佐ってば……」
理佐はスマホをいじるのをやめて、顔を近づけた。そして、溜息混じりに訊いてきた。
「なに?」
形のいい唇が近くにあった。
(はぁ……久しぶりの理佐の唇)
本能が私の背中を押し、無意識のうちに愛おしい唇に近づけていた。しかし、あと僅かのところで理佐は焦らすように離れる。
「ダメだよ」
彼女はいたずらっぽく微笑んで言った。
「お仕置きはまだ終わってないよ」
私は口惜しそうに、うなずく。
(早く、キスしたい。理佐を喜ばせなきゃ––––)
唇を物欲しそうに見つめて、彼女の耳元に欲求不満の唇を寄せて「触って……」と囁く。
「触って?」
「……ください、お願いします」
私の顎を掴んで持ち上げると、諭すように理佐は言った。
「やめてって言われてもやめないよ? 葵が自分でお願いしてるんだから。ね?」
本来ならここでキスされるシチュエーションが理想のはずだが、お仕置き中の私はお預けを食らう。
私は子供のようにほっぺたを膨らませたのか、それとも、乙女のようにうっとりしていたのか。理佐は嬉しそうに美しい唇をにっこりとさせた。それから、私に甘えるように抱きついてきた。
モデル並みの小さな顔を私の肩に預け、目を瞑った。マスカラなどで誇張していない長い睫毛が目立つ。
丘の正体だった左手は私の腰を抱き寄せ、右手は新たな丘となってブランケットに潜りこんだ。スマホ弄るスタイルから狸寝入りスタイルに切り替えて、私を責めるらしい。
演技とはいえ、可愛らしい寝顔が愛おしくてやまなかった。その天使のような寝顔を見せている彼女が、実はサディストな悪魔だということを、次の瞬間まで忘れていた。
先ほどとは違って、今度は花芯と恥骨の中間あたりに爪を立ててカリカリと掻くように愛撫してきている。責めているポイントから、とんでもない快感が電流のように全身を駆け巡り、思わずのけぞった。私の反応に笑いを堪えている悪魔の鼻息が首にかかり、それがまたきゅんと痺れてしまう。
間髪容れず、カリッと抉るように掻かれ、私は総身を跳ね上げてしまった。隣にぶつけたのか、爆睡中のねるが「ううん……」と呻いた。理佐は愉悦の笑みを浮かべながら「こら」と優しくたしなめてきた。
「んっ、んん……」
抑えきれない嬌声を隠すように、手で口を塞ぐ。しかし、まるで神様は全てお見通しかのように、新たな興奮の材料が投下された––––。
左横の自動ドアが開かれ、車輪の音が聞こえてきた。ほどなくして、何種類ものの飲料やお菓子などが積まれたワゴンが姿を現した。続いて車内販売の女性が現れた。「お弁当にお飲み物にお土産はいかがでございますか?」と、乗客に笑顔を振りまきながら重たそうなワゴンを押している。
以前までは、車内販売が回ってくるだけで童心にかえったようにワクワクしたのだが、大人の階段を登り始めている今となっては鬱陶しさでしかなかった。
流石の理佐も常識があるはずだ、止めるだろう。そう思っていた。
敏感な部分を指の圧で押し潰してきた。