渡邊side
(あいつ、なんなの。厨二病発揮したと思ったらお漏らしするし、いよいよやばくなってない?)
「今の見た!? 神の手やばい!」
「ちん子さんはここまで! 交代しますね!」
蝶ネクタイのアナウンスが響き渡る。
「えっ」
ちん子ちゃんが平手を抱えながらどこかへと姿を消した。代わりに台に上がったのは、ポーカーフェイスの子だった。
(ということは、私、まん子なのか……)
「えー、ご覧ください。あのちんことまんこの前で撮ると、お宅らのちんこはビンビンになり、まんこはキツキツになります」
まん子ちゃんは真顔で吃ることなく、なだらかに解説している。
「ご診断、お願いしますっ! まん子様! はぁはぁ」
まん子ちゃんの客の第一号である小太りのおじさんが、息を荒くしながらチャックを全開させている。
「出さんでいい」
まん子ちゃんは動じることなく、ポーカーフェイスを貫いている。そして、前触れもなく客の股間に触れる。触れるというよりは、握っているというのが正しかった。「ふぉうっ!」と聞いている私たちが思わず顔をしかめるような嬌声が、顔を歪めたおじさんの口から漏れる。
「お前、ホーケーかよ。さっさと手術してこい」
「まん子様ッ! もっと罵って下さい!」
「だから早く手術しろって」
「ありがとうございますううう! ぶひいぃぃ」
(なに? この凄まじい光景は……もはや違うコーナーじゃん)
「まん子様ぁ! 私を抱いて下さい! ずっとずっとまん子様を思いながら一人セゾンを……アッ」
最後まで聞かず、女の客にも容赦なく股間を握る。
「ん? あんた、百人斬ってんじゃん。とんだ淫乱女じゃねえかよ」
「まん子様を思うと我慢できなくって洪水状態なんです! おかげでセックス依存症に!」
「どうでもいいけどあんた梅毒にかかってるよ」
「まん子様ぁぁ!」
(さらっと凄いこと言ったよね? 今)
ちん子ちゃんとは違い、躊躇のないまん子ちゃんのお陰で列の流れは早くなり、気づくと私の番になっていた。
「ほら、早く来いよ。後ろ、つっかえてっから」
「はぁ……」
「おらよ」
私の股間を躊躇なく握って来た。
「うっ!」
「えー……お宅のまんこ、重症ですね。まるでサハラ砂漠。それとも黄砂発生中かな? 売店にてローション売ってあるんで、お買い上げください。1000円でーす」
仏頂面ながらユーモアを交えた下ネタトークを繰り広げるという、シュールな光景がかえって周りの笑いを誘っている。たまらない侮辱を感じた私は、まん子ちゃんの顔に平手打ちしようとしてる手をぎゅっと握りしめた。
「むっ!?」
ポーカーフェイスのまん子ちゃんが、いきなり難しい顔を浮かべている。
「な、なにか……?」
長沢の言葉が蘇る。
“まん子ちゃんの神の手は、相手の股間に触れただけで形状や状況を当てられるの。病気も当ててくれるとか”――
性病の心配はないはずなのだが、病気の可能性はなくはない。不安に包まれた私はいつの間にか、握りしめた手を緩めて口に当てている。
「これは……膜? お宅、見かけによらず処女なんだな」
「バコーン! 写真撮りま……」
バシンッ
憎たらしいポーカーフェイスの頬に平手打ちをお見舞いする。流石に強すぎたのか、まん子ちゃんは体勢を崩し、どぼんっと音を立てて池に落ちた。私は頓着することなく、その場を去った。
「きゃあああ! まん子様の美しい顔になんてことを!」
「まん子様! 大丈夫ですか!」
(なんなの! あいつ––––)