♂第一話♀

渡邊side


 ここの雰囲気が苦手だ。一刻も早く帰りたかった。なのに、平手は中二病発揮するくせに、まだ居たいと駄々こねている。それどころか、以前より生き生きとしているのは気のせいだろうか。

 私は前から下ネタが苦手なのだ。部活でも思春期からか、話題はもっぱら下ネタだった。次第に話に混ざらなくなり、周りからは付き合い悪い女とレッテルを貼られてしまった。たかがトランプゲームに負けて、下ネタの宝庫に放り投げられるとか人生最大の罰ゲームじゃないか。
 「ちん子ちゃんのどぴゅどぴゅ解説コーナー☆」は終わり、散らばって行く客たち。変に顔が赤い平手の手を引きながら進むと、一人の姿が見えた。

美しい––––

 金髪に近い茶髪に染められたショートカットから、覗かせているエルフのような耳。切れ長の大きな眼。寝起きのような呆けた表情。Tシャツにデニムパンツを身に纏っており、女の子らしいちん子ちゃんとは対照的にボーイッシュな子だった。どこかメランコリックな美しさを持った、ミステリアスな雰囲気に私は思わず見惚れてしまっていた。
 彼女も黒いエプロンを身につけており、女性器のイラストがバンッと載っていた。その下には「まん子」の字が刺繍されている。

 

(まさか……)

 

 エルフ耳の子は無表情で飴を舐めている。よく見ると、その飴は女性器の形をしていた。

ペロペロペロペロペロ
「平手ちゃん。目を合わせちゃ駄目、行こう」
ピチャピチャピチャピチャ
「あっ、うん……」
チロチロチロチロチロチロチロチロ
「さっ、早く……」

 

「客か?」

 

(か、絡まれてしまった!)

「はい、そうです。もしかして……まん子さんだったり?」

 平手がなぜか目を爛々と輝かせながら、嬉しそうに聞いている。

「いかにも」

 

 はい、予想通り。
 こんなに綺麗な子なのに、秘宝館の二人娘の一人だなんて。見惚れてしまった自分が憎い。

「お宅ら、今から二人セゾンするのか? それならこの裏にチェリーっていうラブホテルが……」

「二人セゾ……? いや、カップルじゃないし、下品なこともしないんで」

 私たちは逃げるようにその場を去った。

 

「あれが、ちん子ちゃんの妹なのかぁー! 似てなかったけど、すごい美人だったね」

「美人だけど下品だよ、ありえない。引く」

「ははっ、理佐は真面目だなぁ」

「そんなこと言うけど、平手ちゃんは平気なの? こんなとこ」

「んー私は好きかもしれない

(うっそでしょ……)

 頭を抱えてると、耳をつんざくような黄色い声が背後から聞こえた。

「きゃあああ! まん子様いる!」

「やばい、まん子様実物マジ神!」

 まん子ちゃんは、いつの間にか女たちに囲まれていた。ちん子ちゃんは男性人気、まん子ちゃんは女性人気が凄まじいといったところか。

「いつものキャッチフレーズお願い!」

 女ファンたちのリクエストに応えるべく、まん子ちゃんはポーカーフェイスを崩さないまま人差し指を頬に当てて、首を傾けながら言った。

 

「まんこまんなかくぱぁ~!」

 

 

「きゃあああ! 抱いてええ!」

「大変! 南那ちゃんが失神しちゃった!」

(酷いキャッチフレーズ……)

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