♂第一話♀

 真夏の炎天下の中、陸上大会が開催されていた。絵の具を何も混ぜずに染めたような青空に、向かいの木々の上から真っ白な入道雲が覗き出している。陽炎かげろうが立つほどの熱さで、観客席ではペットボトルの水をガブガブと飲み干している姿でいっぱいだった。
 トラック&フィールドには灼熱しゃくねつの太陽に焼かれながら色んな競技で競い合う陸上選手たち。

 私は今日も彼女を見に来た––––

 トラックに立つ少女がいた。少女は艶やかな黒髪のボブが印象的だった。日射を浴びて熱そうな黒髪を揺らしながら、スターティングブロックを調整している。
 スターターが台に上がり、コールする。

「位置について」

 選手たちは膝を着き、クラウチングスタートの体勢を取る。

「用意」

 スターターが右手を上げると同時に、選手たちも腰を上げる。

どんっ

 スターターピストルが発射された瞬間、一斉に選手たちが後ろ足を蹴り、駆け出す。ボブの子が頭ひとつ抜きん出ていた。頭が上下することなく水平線を書くように、疾風のごとく駆けた。

美しい––––

 独走状態のまま、ゴールの5メートル先まで走りきると満面の笑顔を浮かべた。少女は息を整えながら私の方を見てきた。

 夏のいたずらか、それとも恋のいたずらか––––

 のぼせた私は思わず、被っていた麦わら帽子で顔を隠した。
 

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