「はいー! 友梨奈と理佐アウトー!」
「うっそ……」
頭を抱えているのは平手友梨奈。欅女学園の陸上部一年の中でダントツに早く、ルーキー離れした活躍を見せている期待の新人でもある。
「はぁ。マジ、ついてない」
頬肘ついて不貞腐れているのは渡邉理佐。陸上部二年の中でダントツに早く、走り高跳びでは部内トップクラスを誇る。
欅女学園の陸上部一同は合宿で某県に来ている。地獄の合宿も終盤を迎え、あとは思い出作りに勤しむべく、部長の部屋に集まって学生らしい夜遊びを楽しんでいた。ババ抜きを2ゲームやり、最後に残った2名がアウトというルールで平手と渡邉が残ってしまったわけである。
「あの欅の森の中にあるらしいよ」
部員の織田が尾関の肩に腕を乗せて、意味ありげな笑みを浮かべて話しだす。
「あるって?」
織田はニカッと白い歯を見せた。
「秘宝館!」
“秘宝館”––––
まだ高校生の彼女たちにとっては馴染みのない言葉であった。守屋が急に立ち上がり、仁王立ちで平手と渡邊の二人に指令を出した。
「てっちゃんと理佐ー! 罰ゲームは“秘宝館”の探索で決定! どんなとこか見てきて教えなさいよね!」
顎を上げて偉そうに話してるのは部長の守屋茜だ。陸上部の中でも輝かしい成績を納めており、我が部の部屋に飾られているトロフィーのほとんどが彼女の物である。
練習中では気合のビンタが飛んできたり、周りもドン引くレベルの熱血っぷりから軍曹と恐れられている。そんな彼女に逆らえるはずもなく、罰ゲームを飲むしかなかった。
そうこうして日が変わり、合宿の最終日を迎えた。旅館の前には「せっかくのフリーの日を罰ゲームに費やさなきゃいけないのか」とぼやきつつ、タクシーを捕まえる二人の姿があった。
「どこ行くんでぇ?」
厳つい顔をしたタクシー運転手が振り返って聞く。妙に酒臭く感じたのが二人を不安にさせる。
「えっと……秘宝館ってとこに」
「秘宝館!?」
タクシー運転手は海苔みたいな眉を上げて驚いた後、いやらしい笑みを浮かべた。
「君たちも好きですな。まだ学生なのにやるねえ。君たちも、あの二人目当てで行くんじゃろ?」
などと運転手は意味不明なことを話しつつ、アクセルを踏んだ。
「館長を任されている二人目当てで行く人が絶たなくてなー。まぁ、タクシー運転手としてはいいカモだけどな。カッカッカ」
平手と渡邊は目を合わせ、互いに苦笑いを見せている。このままタクシー運転手のどうでもいい世間話に付き合ってると、欅の森のどこかで下ろされた。
「じゃあ、帰るときはこの番号にかけてくれよ! 飛んでくからよー」
タクシーは排気ガスを吹かしながら森の方へと消えてしまった。ずっとタクシーの行方を見守っていた二人はまるで振り向きたくないと言わんばかりの様子だ。
「はぁ……」
ため息を吐いた後、ゆっくりと後ろを振り向く。二人の視線は、森の中に異物が混じったような不気味な建物に向けられた。緑に囲まれてる中で、ピンクだのオレンジだのグリーンだの蛍光色で彩っており、サイケデリックな雰囲気を醸し出していた。てっぺんには巨大なキノコらしき煙突が立っており「子宝」と書かれている。まるで某漫画家の自宅のような、森林には相応しくない出で立ち。チカチカしてて目に悪い光景だった。
「ねえ、理佐。どうしよう。帰る?」
「帰ったら、軍曹の背負い投げが待ってるよ。適当に見て帰ろ」
二人は渋々と怪しい建物の方へと歩き出した。まさか二人に、世にも奇妙で、とても変態的な出会いが待っているとは、このときは知る由もなかった––––