驚かない、と思ったけど。新たな私の登場に私たちは一瞬硬直した。なぜなら、たった今来た渡辺理佐とかなり似た出で立ちだったからだ。よくよく見ると、あちらの方はショートボブで、動物のイラストが模様柄になっている子供っぽいエプロンをしていた。
渡辺理佐の方は、対照的にアートのような模様柄をしたエプロンをしている。尋ねたところ、三宅一生が手掛けたデザインというのだから納得がいく。
入り口で立ち尽くす新入りの私を、渡辺理佐と同じように優しく席に誘導して早速、現状説明と自己紹介に入る。まずは私たちから自己紹介をはじめ、女性と付き合っていることを伝えたら、彼女は驚かない。そいつも同性と付き合っている、と私たちはそう確信した。
子供エプロンの私は辺りをキョロキョロした末に、現状を認めたのかようやく自己紹介に入った。
「仕事は同じ保母で。私は、葵と付き合ってて」
まさか幼馴染の原田葵と付き合うなんて。どういう経由で付き合ったのだろうか。米谷並み、いや、それ以上の衝撃を受けた。驚きが隠せない私たちの表情は予想通りだったらしい。そうなるよね、と付け加えて経緯を話してくれた。
「ずっと引っ付き虫だったからさ。同情っていうんかな、告白されて傷付けるの可哀想かなって付き合ったんだけど、その……」
「その?」
「なんていうか「妹感」がやばい。マジで女として見れない」
「わかる」
「そりゃあね」
「葵だもんね」
私たちは満場一致で原田理佐に同情した。
「綺麗になったんだけど。「綺麗な妹」に進化しただけ、みたいな」
うんうん、と頷いている中。
「そのさ、夜の方はあまり興奮できない感じ?」
米谷理佐はご無沙汰ということで性欲を持て余しているらしい。夜事情に関しては興味津々なようだ。
「それねー初めてをもらったんだけど、なんか荷が重いっつか」
世の処女厨たちが怒り狂って殴りかかりそうな贅沢な悩みだが、黙って話に耳を傾け続けることにする。
「幼馴染のせいもあってか、罪悪感やばいんだよね。小学生とヤってるみたいな。ウチ、犯罪じゃね? みたいな」
ここまできてひとつ、気づいたことがある。「Branch」に召集されている違う世界の私たちは“元クラスメイトのどなたかと付き合っている私”なのだ。
じゃあ、斎藤理佐もいるのだろうか。見たいようで見たくない。
「恋人、というよりは世話してるみたいな感じ」
「それわかる! 私なんかは介護レベルなんだよね」
「あんた……」
「あなた……」
渡辺理佐と原田理佐は強いシンパシーを噛みしめるように抱きしめ合った。同じ顔の二人が熱い抱擁。異常な光景だ。
チリン
「いらっしゃいませぇー!」
「いらっしゃい」
メガネを整えて来客に構える米谷理佐。戸惑う原田理佐を落ち着かせて説明する渡辺理佐。
私は––––長濱理佐の私は、未知なる出会いにワクワクしていた。
面白い
>太郎 さま
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