branch<下>

理佐……

理佐………

理佐…………

「理佐!」

 目を醒ます。なんか重たいなと思ったら、私の上で彼女が馬乗りしていた。生まれたままの姿……ではなく、パジャマ姿だった。顔は、涙でぐしゃぐしゃだ。

「なんしよっと!」

 私は、私が居た世界に戻ってきたのだろうか。
 ねるの後ろには紺碧こんぺきの朝空が広がっていた。私は道路の上で横臥してしまったようだ。嘔吐までしてしまったらしい、真横には吐瀉物の跡があった。25歳といい大人になるのに、情けない有様だ。

「本当に心配したんやけん、謝ってよ!」

 たまらず、ねるを抱きしめた。懐かしく愛おしい恋人の匂いに鼻の奥がツンとして涙が滲んできた。
 店の方を確認する。暖かい光は、ない。ドアには「closed」の札がぶら下げられていた。

「ごめん。本当にごめんなさい。ちょっと、寄り道してた」

 奇々怪々ききかいかいな物語。夢物語だったのかもしれない。正解は––––わかんなくてもいいや。謎は、謎のままに。
 Branchの店を見つめる私を不思議に思ったらしい、ねるが言った。

「にしても、変な店よね。間違えたんかも、『Brunch』と」

「ううん、この店は『Branch』で正解だよ」

 ひんやりとするアスファルトの地面から体を起こし、自分からねるの手を取って、繋いだ。ねるは驚いたらしい。丸くなった瞳をこちらに向けた。
 いつも、ねるからだもんね。いつもごめんね、ありがとうね。

「いい顔してるよね、なんかよかことでもあったと?」

 荒唐無稽な話をしても信じてもらえないだろうし、私自身が誰にも話したくないような気もした。美しい思い出のまま、心のうちに秘めとくことにした。

「ちょっとね、タヌキに化かされていたんだよ」

「なにそれー、私の悪口じゃないんでしょうね」

 欲求不満な似非インテリ・米谷理佐の私。
 お洒落なエプロンをした介護人・渡辺理佐の私。
 子供みたいなエプロンをしたロリコン・原田理佐の私。
 意識高い系偉そうな女社長・守屋理佐の私。
 セレブなドS女王様・菅井理佐の私。
 直情的ヤンキー・志田理佐の私。
 超絶不幸体質・小林理佐の私。
 監視されてるおデブ・長沢理佐の私。
 危険思考・平手理佐の私。
 そして、尾関理佐の私。

 良き出会いであった。誰よりも出会ってよかったのは……。

「ねるっ!」

 私はまた、ねるに抱きついた。

2件のコメント

  1. なかなかの奇抜な設定のお話で楽しく、そして最後は前向きな話して面白かったです。
    さくらん坊さんのお話は、実は思い出しては読み返しています。
    既に恋人同士なんだけど、片方の勝手?な気になりごとからお話し、最高です。
    また期待しちゃいますが、こっそりと応援しています。

    1. >ひぃ さま
      ありがとうございます。
      実は当初の構成としてはバッドエンドだったんですよね。
      尾関理佐になって「こんなはずじゃなかった!」的な・・・
      でも前向きに終わりたいのでこのような終わりに締めさせていただきました。

      リピートしてくださってるということかな?お恥ずかしいですが、嬉しいです照
      期待に応えられるよう、頑張りますね!

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