小説家からの贈りもの

 外に出ると、冷たい風が容赦なく頰に吹き付けてきた。風呂上がりだから余計冷える。そのせいで涙が不意に流れた。
 私たちは愛の巣に帰ろうと足を進める。

(夜の営みは全然ないんだけどね)

 世間はクリスマスシーズンで、街中できらめくイルミネーションの光が目にみる。
 クリスマスの広告が嫌でも目に入る。本来なら、恋人と過ごせてハッピーなはずが、憂鬱ゆううつな気分になっていた。
 織田は白い息を吐きながら「う~、さぶっ!」と、言った。

 

 織田は小説家の卵だ。小さい頃から本を読むのが趣味だった彼女はいつしか作家をこころざすようになり、学生の頃から私小説を書き始めた。
 とある文学賞で佳作を貰ってから、ちょくちょく作品が表に出るようになった。今では多くの人がアクセスしている小説マガジンサイトで、恋愛小説を連載している。そのサイトの顔になっているくらいには人気があるそうだ。出版も夢ではないかもしれないとの話だとか。

 これまで彼女が出した作品は全て読んだが、いずれも恋愛小説だった。そして“僕”が恋する女性がどれも織田の片想いの人をモデルにしているのは明らかだった。

茶髪のロングヘアで、チャームポイントの片八重歯、趣味はギター。素っ気なくて、大人しくて、けどしっかりしていて、守りたくなるような存在––––。

 人物像の細部まで妙にリアルに描写されており、その人は織田の片想いしている、あの人しか思い浮かばなかった。
 織田自身の諦めきれない恋を小説の中で実現させているのだろうか。しかも、織田は官能小説も出しており、作品の中には片想いの人と結ばれるシーンがある。信じがたいことに“僕”が片想いの人を陵辱りょうじょくしているのだ。それは織田の実体験なのだろうか。
 片想いの人の顔を知っている故に、鮮明に空想できてしまうのが苦しい。恋人の作品を読む度に、心がむしられる思いでページをめくっていた。

 去年のクリスマスを最後に、肌を重ねることはなかった。私がいくら求めようと断られるのだ。
 私とて二三歳。お子様ではないし、セックスを知っている身体は欲求不満を覚えるばかり。そして、めすである。当然、女盛りだ。好きな人に求められると嬉しいと言うのが女の本能であろう。持て余した性欲は日に日に募っていく。

 織田が触れてこないことに苛立っていた頃に、彼女の嫉妬に火を付けようと私は彼女の友人である、舞台俳優の卵の彼を紹介された後に「さっきのイケメンだった。抱かれたいなあ」と意地悪く言ってみた。それが事の発端だった。
 これに織田は目を輝かせながらいてきた。

「ほんと? 抱かれてみる?」

 予想外で、とても辛い反応だった。

4件のコメント

  1. いつも読ませていただいてます!
    寝る直前に読んで目が冴えました笑
    自分が見つけられてないだけかもしれませんけど、オダナナの裏って意外と(?)少ないのでめちゃ嬉しいです笑

    1. >risco さん
      はじめまして!
      あらあら……寝不足にさせちゃってごめんなさい♡フヒヒ
      確かにオダナナの裏あまりないですよね!と自分も思ったので、今回書かせて頂きました!喜んで頂けたなら光栄です。
      引き続き、宜しくお願いします(^^)

  2. いつも読ませていただいてます。
    『もう他の男性の躰では満足させないように、彼女を情慾を火だるまにする—-』この一文に痺れました!
    歪んだ深すぎる愛、良いですね。
    それもまたオダナナとスズもんらしいかなと。
    最高な作品をありがとうございます‼

    1. >sysm さん
      いつもありがとうございます。

      あああ、それはですね。実は、作中ですずもんが音読している文は実在している官能小説から引用しているんですね。とはいえ、丸ごとは流石にマズイのでちょこちょこいじってはいますが。・・・ということで、いずれ自分も痺れるような文が書けるように精進します!

      歪んだ愛が好みでしょうか?実はそのネタも温めてあります!いつかは出しますので、その時はぜひ、悶えてくださいませ♪
      ありがとうございます、そう言っていただけるなんて光栄です!

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