記念すべき一日目の巻

なに勝手にフラれてんの。そんなにフラれたい?

好きじゃない人とはこういうことするわけないでしょ、それぐらい分かって。

答えはイエスなんですけど。友香の鈍感。

手繋いで帰ろうか、の続きをして––––

 爽やかな朝がきた。都会の中心に住んでいるのに、森林浴しているような清々しい気分だ。頭がやけにスッキリしている。今なら、苦戦していたレポートもスラスラ書けそうだ。

「よーし!」

(さあ、今日も1日がはじまるぞ!)

 ベッドから勢いよく身体を起こして、準備体操をはじめる。じっとしていられないくらい、心が、体が、遠足気分だった。
 スマホを開いて昨日のトークを確認する。最後の一文が。

「明日、寝坊厳禁! おやすみ♡」

 私はたまらずスマホを胸に当てて歌い出した。恋は、ミュージカル女優にさせてくれるのだ。ディズニーに出演しているキャラクターに成りきって、歌って踊りながら身支度をして、軽い足取りで階段を降りていく。
 食卓に入ると、美味しそうな匂いが鼻腔を満たした。焙煎されたコーヒー豆の香りが私をリラックスさせてくれる。

「おはよう、友香」

「おはよう、ぐっすり眠れた?」

 私は元気よく挨拶して、テーブルにかける。

「おはようございます、お父様、お母様!」

 菅井家の1日は、有機野菜をふんだんに使ったベジタリアンな料理を並べた食卓を家族で囲い、コーヒーを体内に点滴することから始まる。

「友香、いいことがあったみたいだね」

「お父様、わかっちゃいます?」

「うん、すごくいい顔してる」

 お父様の観察力、流石です。実は、私に恋人ができました。その恋人は同性––––というか女の子で、しかも欅のメンバーです。報告はまだ、出来ないです。いつかその時が来たら……。

 時計を確認する。仕事の時間まで、まだ余裕がある。しかし、早めに行きたかった。朝食をぺろりと平らげて、コーヒーを飲み干す。
 カバンを持って玄関に腰掛けると、トムが寂しそうに戯れてきた。垂れている耳にこそこそと、耳打ちする。

「今日ね、彼女と付き合って初めて会う日なんだ。だから楽しみ! 内緒だよ」

 トムにウィンクする。私の言葉が通じたのか、返事代わりにミャーと鳴いた。

「行ってきます!」

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