(えっ、バレ……え、なんで?)
意味もなく周りを見回し、軽いパニックに陥りながらも、ねるの誘惑から逃れる手段ができたと目を醒ましていく。そして、ふつふつと湧き上がる残念な気持ちを押し殺しながら通話に出た。
『もしもし』
梨加ちゃんの声がどこか小さかったのに、心がざわつく。
息を呑んで、返事した。
「梨加ちゃん」
『ふふっ』
いきなり笑った。拍子抜けした私は呆れたように「なんだよ」と訊く。これは私たちの会話では挨拶みたいなものだった。これで、わかったことがある。梨加ちゃんは怒っているわけではないようだった。安堵する。しかし、それも束の間だった。
ねるが、いきなり咥え込んだのだ。
(おいっ! 嘘だろ––––!)
思わず悲鳴を上げそうになるのを手で塞ぐも「んぶっ」とくぐもった声が漏れてしまった。幸い、梨加ちゃんには聞かれていないようだ。
ねるが、私の男根を咥えながら笑った。笑い事じゃない。ねるの頭のつむじを睨む。
『友梨奈ちゃん』
ねるの頭がピストンのように動きを早めたのを、私はぐっ、と堪える。
ジュブ、ジュブ、ジュブブッ––––。
卑猥な音が聴かれてはまずい。音源から離れるように、座った姿勢のまま上半身をちょっと後ろに倒す。
『可愛い』
私は一瞬、ねるに食べられている男根のことを言っているのかと思い、思わず「な……」と声に出してしまった。
恋人の梨加ちゃんとイチャイチャ通話、ねるちゃんは私のおちんちんをおしゃぶり。こんな環境、頭がこんがらがらないわけがない。
(落ち着け、いや本当に落ち着けバカ)
身動きできず、全身を強張らせた。男根もギンギンに強張らせている。引き攣った顔の筋肉を懸命に動かして返事する。
「なに? どうしたの、いきなり」
震える声で尋ねる。クーラーはガンガン効いているはずなのに、身体がじっとりと汗ばんでいく。それでも、ねるはこの状況を楽しむかのように容赦無く口淫愛撫で刺激を与えてくる。
上目遣いで、恋人と通話している私を見上げた。その顔が憎くも煽情的で、恥知らずなのを承知でもっと催促するように、頭を撫でてあげた。
レシーバーの向こうで、梨加ちゃんがはしゃいでいるようだった。人の名前を呼ぶ声がした。「ななこ」と聞こえた気もしたが、私は完全に“こっちの世界”に夢中だった。