不貞

ちゅ……

 一瞬抵抗したがすぐに、どうにもなれ、と投げやりな気持ちになってきた。
 ふんわりと重なるだけのキス。それだけで、硬直した全身の力が抜けていく。

ちゅ、ちゅ、ちゅっ……

 ねるの腰に腕を回して、抱き寄せる。彼女の熱い体温が服越しに伝わる。
 一回息継ぎに離れたねるの、うっとりと細めた垂れ目が、なんと色っぽいことか。私を発情させるように、コケティッシュに舌舐めずりしてみせてきた。それから口を開いた。

れろ……

 今度は私の方から舌を絡ませていく。ねるは鼻息を恥ずかしげもなく漏らした。ねるの甘く熱い唾液を味わい尽くすように貪る。もう、止まらなかった。

くちゅくちゅ……

 お互いの口の中で、二枚の舌がじゃれるようにうねり絡む。そのまま崩れるように、ベッドの上に転がる。私の下でねるが、濃厚なキスを続けながら、ズボンにもっこり膨らんだ男根をまさぐってきた。それも、強弱つけての巧みな手つきで。

(ねる、やっぱり慣れてる。一体何人の野郎とエッチしたんだろ……)

 初心うぶさの欠片も感じない愛撫に、過去の男たちと同じように気持ちよくなっているのが悔しくなる。
 私も負けじと、ねるの胸を弄る。経験は一人しかないが、回数はそれなりにこなしている。ねるを満足させることだって出来るはずだ。

「ん……ふ」

 ねるもお返しとばかりに、次の攻撃を仕掛けてきた。
 ズボンとパンツを共に下げて、器用に男根を引きずり出した。男根の先端からは待ち焦がれていたかのように、よだれを大量に垂らしていた。

(き、来た……!)

 心をおどらせた。葛藤がないわけではない。しかし、ねるの口淫に惹かれてやまないのも、正直な心情だった。
 ねるは私を座らせて股を八の字に大きく広げさせると、脚の間に顔を近づけた。
 さっきまで私の唇と重なっていた、厚く柔らかい唇が男根に触れる。彼女の舌が蛇のように、ゆっくりといやらしく巻きついてきた。ぞわりと全身の毛穴が開く。

(ああ、この感触……)

 久々の口淫にどういうわけか、胸が熱くなってしまった。涙さえにじんでしまうほどに。
 梨加ちゃんはセックスをさせてくれないわけではない。ほとんどが私から求めての、まるで一方的なセックスではあったが。ただ、ねるの口淫を知って以来、梨加ちゃんのセックスでは物足りなく感じてしまった。
 その度に自分を不潔だと何度も責めたが、満たされない気持ちも偽れなかった。
 罪悪感と快楽の狭間はざま彷徨さまよいながらも、この絶妙な愛撫から逃れないのは確かなことだった。

「んふ、おいひい」

 呼吸するのも忘れて、私の男根をおいしそうに頬張ほおばる姿を、ただ凝視する。
 自分は童貞ではないはずなのに、ねるを前に自分は童貞時代に逆戻りしたような、妙な悔しさとたのしさを覚えたのだった。

 ふと、クローゼットを見遣みやった。そこには、官能的な影の演劇が上演されていた。
 灯りを受けてできた、私たちの一回りほど大きなふたつの影。私の股間から棒が直立に生えており、それに串刺ししているように見える女性の顔が、ゆっくりと上下している。なんて淫らなことか。

ピロン

 通知音に心臓が跳ね上がった。そのお陰で我に返った。反射的にねるの口から男根を離して、ポケットからスマートフォンを取り出して確認する。ライン画面を見て、私はあおくなった。恋人、梨加ちゃんからだった。

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