ドアを開けると、チリンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませぇー!」
「いらっしゃい」
威勢の良い声と、ドライそうな声が、私を出迎えてくれた。
カウンターの向こうに二人の男性。片方は丸坊主に蝶ネクタイをして人懐っこそうな笑顔を向けてくれており、もう片方は、サングラスをかけて顎鬚を生やした無愛想そうなおじさんが近寄りがたい雰囲気を出している。
店の内装は外装と同様、童話チックな造りとなっていた。全体的にアンティーク風で、壁は木の根っこで覆われていた。おそらく、屋根から生えたブロッコリーのようなあの欅の木の根っこだろう。そこで、私は思わず「んっ?」と、目を張った。
木の根っこを這わせている壁には壁掛けフォトフレームが数点掛けられており、写真はどれも全て私だった。前歯が抜けているスマイルの私、セーラー服を身につけて前髪をかなり短く切りそろえられている私、モデル時代の気取った笑顔を見せている私、おそらく私であろう赤ちゃん、このおばあさんは––––考えないことにしよう。いずれも証明写真のように正面を向けている。
ああ、相当酔っ払っているんだな私。
暖炉があったが、今は夏なので機能していない。本棚には古めかしい本でびっしりと埋まっている。
アンティークラジオに、蓄音機、タイプライター……古いディズニーアニメで見かけたような昔の壁掛電話まであった。どれもオークションに出したら高額で引き取ってくれそうな代物だらけだった。
二人のおじさんの後ろには壁一面を占める黒板があり、よくわからない本格的な数式と図でびっしりと埋まっている。
ネイチャーとサイエンスとのコラボからして「自然科学」をテーマにしているのか、よくわからない店だが、高校を首席卒業した理系のねるを連れてきたら喜びそうだと思った。
カクテルテーブル前の椅子に掛けて「とりあえず、カクテルを」と挨拶のように頼むと、おじさんが「あー……」と、坊主頭を掻きながらバツが悪そうに言った。
「実は、うちでは酒と食事を提供していないんですね」
思わずしかめっ面を向けると、厳つそうなおじさんが顔の前で手を振った。
「あのね、うちね。バーでも、スナックでもないのよ」
「ここで提供するのはひとつだけ」
丸坊主のおじさんが人差し指を立てて言った。ピュアそうな笑顔で。
「“自分との出会い”です」