自分の耳を疑った。「NO」か「ごめんなさい」の選択肢しかないと思い込んでいた私は、選択肢外の返事に飲み込めないでいた。
「本当に?」
梨加ちゃんは朝に見せてくれた、優しい笑みを見せて小さく頷いた。予想外の展開に面白くないと感じたのか、カラスは鳴くのをやめてどこかへと姿を消した。
夢でも見ているのではないかとしばらく呆然とする私を、梨加ちゃんは覗き込むように見つめてきた。
「あのぅ。私たち……付き合う、んだよね?」
もじもじしながら首を傾げて聞いてきた。反則級のかわいさである。
「好き」は伝えても「付き合おう」とは言っていない。私にとって、「好き」と伝えるだけでも精一杯の告白だった。
「じゃあ、付き合ってくれますか?」
頬を赤くして、はにかみながら小さく頷いてきた。お互い、嬉しいやら恥ずかしいやら、くすぐったい気持ちになる。
穏やかではなかった休日が、最高に幸せの日になろうとは。
「あ」
梨加ちゃんは何かを思い出したのか、手を叩いてポケットから何かを取り出して両手で広げてみせた。ネックレスだった。センターにタツノオトシゴらしきパーツが揺られている。続いて、ヒトデやらパールのようなものがセンターに寄り添っている。見ていてロマンチックな気分になれそうだった。
「それは水族館の……」
「おいで」
急にお姉ちゃんの顔を見せられ、胸がときめく。
(なんだかんだお姉ちゃんだなぁ)
「前を向いて」
私を前に向かせ、首にネックレスがかけられる。梨加ちゃんの細長い指先が首に触れて、肩がびくんと跳ねる。
「私、話すこととか苦手だから……あまりうまく伝えられないけど」
後ろからネックレスを留めるのに苦戦してる梨加ちゃんが語りかけてきた。
「友梨奈ちゃんは年下なのにしっかりしてて。尊敬してるから」
予想を裏切らない不器用さで、まだ苦戦しているようだった。
「私も、頼られるように頑張るね」
なんだかいじらしく見えて、ふふっと笑いをこぼすと梨加ちゃんも一緒につられて笑いをこぼしている。
「できた」
首元を見ると、タツノオトシゴが気持ちよさそうに眠っている。向き直ると梨加ちゃんはシャツの中に隠れていた、お揃いのネックレスを持ち上げた。彼女のネックレスのセンターはサメだった。持ち上げる手を包み込むように握る。
私は初めてのデートのリベンジを果たそうと持ちかけた。