夕方の5時ぴったりに梨加ちゃんに呼び出されるまで、何をしていたかはほとんど記憶にない。重い足取りで彼女についていく。
寮の非常口のドアを開け、外に出ると空一面が赤く染まっており、カラスがカァカァとやかましく鳴いている。それはまるで今から振られる私を冷やかす声に聞こえて気に入らなかった。
階段を登り、屋上の近くで先導していた梨加ちゃんが立ち止まった。くるりと私と向き合う。
「昨日のこと……なん、だけど」
「ちょ、ちょっと待って!」
その先の答えを遮る。あまりにも自然すぎる流れに心の準備が追いつかなかった。覚悟を決めるべく一度、二度、深呼吸をして心を落ち着かせてから顔を上げた。
「はい、なんでしょう!」
大丈夫、ハンカチは持参している。しかし、泣いちゃったら困らせてしまうか。あとで風呂で思いっきり泣くことにしよう。
現実から逃避するように考えを巡らしていると、既に梨加ちゃんが返事していることに気付く。
「……から」
返事は耳を澄ましても分からなかった。
「えっ?」
「……しれないから」
今度も努めて耳を澄ましてみるも、聞こえない。それどころか、風が吹く音にすらかき消されていた。梨加ちゃんの口に至近距離で耳を傾ける。梨加ちゃんの遠慮がちな吐息が耳を掠めてくすぐたかった。
「私も……」
一拍の間を置いて、おずおずと答えが来た。
「友梨奈ちゃんのことが好きかもしれない、から」
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