告白

 初公演は無事閉幕した。汗と共に雑念が流れていった気がして、爽やかな気分だった。
 一つ目の大任を果たした今、梨加ちゃんのことで頭がいっぱいになっていた。

 梨加ちゃんに会いたい。
 そして、想いを伝えたい––––。

 ステージから降りると放心状態のメンバー達、興奮状態のままのメンバー達が互いに労いの言葉を交わしていた。
 以前より皆、どこか頼もしく感じた。共に成長する喜びを分かち合うように私も混じってメンバーと語り合う。しかし、そこには想い人の姿はいなかった。会いたくていてもたってもいられなかった私は、彼女を探るべく駆ける。

 

 廊下で梨加ちゃんの姿を捉えた。インタビューに答えているようだったが相変わらず「ん~」しか出てこず、インタビュアーを困らせている。私に気づいたのか大きくて丸い目を私に向ける。しばらく目を合わせたのち、俯き加減に視線をそらして、そわそわしだした。
 インタビューが終わると、私から逃げるように反対の方向へ歩き出したところで彼女の腕を掴む。

「二人だけで、梨加ちゃんに話したいことがあるんです!」

 私に背けた顔がゆっくりと振り向く。ちらりとのぞかせた顔は私の見たことのないような表情をしていた。頬に朱が注がれており、眉をひそめては唇を歪めていた。嫌悪のようにも、恥じたようにも取れる曖昧な顔をしていた。
 切なさと愛おしさで胸が裂けそうになる。それでも、梨加ちゃんの腕を掴む力を緩むことはしなかった。
 観念したのか、俯きながら小さい声で答えが返ってきた。

「うん……」

 

 とにかく人目を避けたかった私たちは、7階のラウンジへ向かう。エレベーターから出ると木のような香りで満ちており、胸いっぱいに吸い込むと気が澄んできた。天井を見ると船を彷彿とさせるアートのような巨大な骨組みが威圧的に構えている。右に向かって歩くとそこは何もないスペースで全体的に暗く、ガラス近くの足元からライトを照らしていて、それなりに甘いムードを漂わせていた。

「わ~」

 梨加ちゃんは小学生のように足をパタパタといわせてガラスに張り付き出した。水族館で似たような光景を見たな、と既視感を覚えた。

「あれ見て見て~“ぢ”って!」

 梨加ちゃんの警戒信号はすっかり青色に切り替わってるようで、スケールの小さな夜景を童心に帰って楽しんでいる。
 私はその愛おしい人の名を呼ぶ。

「梨加ちゃん」

 彼女を振り向かせると、澄んだ美しい顔で微笑んできた。ライトに照らされてきらきらと煌めく彼女の大きな瞳は宝石のようで、とても眩しかった。

「ん?」

 あまりにも絵になる美しさに見惚れずにはいられなかった。しばらく動けないでいる私から夜景の方を見て指差して言う。

「見て……電車がオモチャみたい」

 指差した先には、どこ行きか分からない新幹線が運行していた。
 意を決した私は静かに彼女のそばに寄って、指している手を取る。宝石のような瞳をぱちくりさせた彼女に微笑を送りつつ、深呼吸する。

「ちょっと聞いてほしいことがあります」

一大決心をして梨加ちゃんに恋心を告げる。

あの時はいきなりキスしてごめんなさい
梨加ちゃんを見ると、胸がドキドキするんです
他のメンバーと仲良くしてると胸が苦しい
多分、梨加ちゃんに恋してます––––

「私は、梨加ちゃんのことがうきっ……好きですっ!」

 梨加ちゃんに対する想いをストレートに伝えた。人生で初めての告白は、まとまりなくだらだらと長たらしかった。しかも声が裏返るというおまけ付き。ドラマで上映されたらきっとブーイングものだっただろう。

 梨加ちゃんは顔を赤く染めて唇を噛みながらもじもじしているばかりで、なかなか返事がこなかった。しばらく沈黙が流れたのち、やっと口を聞いた彼女の言葉は「考えさせて」の一言だった。その表情はとてもなく真剣で、まるで「傷つけない答えを考えたいから待ってて」と言っているように聞こえた気がしたが「わかった」と返す。

 そして、梨加ちゃんは私の視界から消えた。
 その場に取り残された私はさっきまで梨加ちゃんが見ていた夜景を見つめる。ガラスに映った私の顔は明るかった。

 自分の中のわだかまりはすっかり解けていた。
 サイレントマジョリティ初披露、そして想い人に恋心を告げた私の心は晴れやかだった。線路から夜空へと視線を移すと、東京の空には珍しく星が瞬いていた。