デビューカウントダウンライブ。必死に歌って踊っているうちにいつの間にか時間が経ったらしい。
私はただ平手の勇姿に心奪われてばかりだった。
センターのお手並み拝見と誰もが注目した。しかし、平手の働きは現実を遥かに凌駕するものだった。やはり私の見込んだ通り、いやそれ以上じゃないか。
我らがセンター平手の初陣は気魄を通り越して殺気に近いものを感じた。浅い経験ながら魅せるエネルギッシュなパーフォマンスに触発されて、感染していくように私たちもボルテージが高まっていきハイ状態になる。
平手は曲に入ると激情的になる性分なのだろうか。時として覗かせるドラスティックさはメンバーをも魅了して行ったのであった。
(やばー……)
初めて平手を見た時に心奪われた鋭い瞳が観客に向けられている。その瞳に私と同じようにファンも心奪われゆくのが目に見えるようだった。背中がぞくぞくするこの幸福感に痺れる。
永遠に君の隣で歌って踊るこの時間が続けばいいのに、とさえ思った。
(ぞくぞくするぅ……)
ステージ裏ではあんだけヘタレといて、狂気にも似たバイタリティーで見る人のハートを鷲掴みにする。こんな恐ろしい中学生が他にいようか。
これによって平手のセンター適正はメンバーとファン共に認められたことになるだろう。私の道のりは思った以上に険しくなったみたい。でも、嬉々としている自分がいた。これまで信じられるのは自分の力でしかなかった。他人は所詮他人で、それ以上でもそれ以下でもない関係を築いてきた。
平手はどこか、私の心を揺さぶる不思議な存在だ。誇らしさすら感じる平手の爆発的強さを私はいつか超えてみせる––––
ライブ終了後のインタビューに答えているうちに平手の姿がいないことに気づく。もう帰ったのだろうか。ちょうど戻ってきた冬優花に平手の居所を尋ねる。
「てちこ見なかったー?」
「あーえっと……見てないや。ごめん」
「そっか残念」
(残念……)
積もる話は山ほどあった。二人で互いにこれからについて語り合いたい。私の夢。そして平手の夢。
欅坂46は無事、進発した。この先、どうなるかは分からないが、一つ確かなことは平手と運命を共にして戦っていきたいということだった。