大事な人☆彡

皆さんは友達や仲間、大切な人が泣いてたらどうしますか?
私は友達が数える程度しかいないので、そういう局面には弱いです。
あ、ヤンキー仲間とかそういうのじゃないですよ。
え? ぼっちじゃないですから。

小林結衣です♪
こんばんは

 

「ただいまぁ~」

 大学から戻ったお姉ちゃんが、ソファに私が座っている横でくつろぎ始める。私はというと、ずっとスマホとにらめっこをしていた。

「お姉ちゃん」

 スマホから目を離さないままお姉ちゃんに尋ねると「なぁ~にぃ?」と、だらしのない返事が来たのと同時に酒の匂いがした。思わず眉間にしわを寄せて左を見ると、そこには完全に酔っ払いの顔をしたお姉ちゃんがいた。「酔っ払ってんの?」と聞こうとしたが面倒臭くなりそうなので、振り払うように頭を振る。

「仲間が……何かに悩んでたり泣いてたりしたら、どうする?」

 お姉ちゃんは私と違って友達が多かった。流石、大学生。……と思ったが、自分が大学生になっても友達100人できるとは到底思えなかったので、これ以上悲しい気持ちになる前に空想を終わらせた。

「えっ? ん~……ラインとかするんじゃないかなぁ。時と場合によるけどぉ」

(うむ、まさに当たり障りない答え)

「そっか」

「深刻な場合は、そっとしとくかも~」

「……だよね」

「どうした?欅関連?」

「そんなとこ」

 ふーん、と言うと完全にのびてしまったお姉ちゃんに毛布をかけて「ありがと」と礼を言って、自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がりながら思いを巡らす。

 

 私は友達が全くいないわけではないが、多いというわけでもなかった。これまでの付き合いも狭く浅くで、欅坂46でも全員と仲がいいわけでは無かった。多分、まだ一言も交わせてないないメンバーもいるだろう。そんな私に一人だけ、大事な人がいる。

今泉佑唯––––

 私と同じ「ゆい」の子。最初、彼女を見たのは鳥居坂46(現 欅坂46)のオーディション3次審査の時だった。とてもちゃっちゃくて、白くて……話し掛ける勇気がなかった私はずっと遠くから見ていた。
 彼女の名前を聞いたときは仲良くなれるかもしれないと思った。しかし、加入当初の佑唯はどこか人を寄せ付けないような、尖った雰囲気を醸し出していた。

(もしや、この人は“アイドルなんて夢の足枷でしかない!”というタイプなのでは……?)

 話しかけてみた。この友達があまりいない私が、勇気を持って。返事は予想通りだった。

「同じグループに同じ名前はいらないよね」

 彼女はきっと、悪気はないんだろう。想像通りの、野心が溢れる人だなと思った。そんな人とコンビ「ゆいちゃんず」を組むことになった。プロ意識の高い彼女だから私もヤル気になって一緒にがむしゃらにギターの練習をした。
 お互い依存し合うのではなく、高め合う素敵な関係だと我ながら思った。

 そんな彼女が、今日、泣いていた。
 一体楽屋でなにかあったのかと確認しに行ったが、お祭り状態でネガティヴな要素は一つも見当たらなかった。嬉し泣きかと思ったが、あの感じはどうみても辛いとか傷付いたとかで泣いたような感じだった。佑唯が流した涙は何を意味するのか。すごく気になって仕方がなかった。

 佑唯のライン画面を開いて文字を入力する。

“大丈夫?”

(やっぱ、あれは只事じゃなかった気がする。聞くのはヤボかも)

 バツボタンを連打して文字を消す。

(そうだ、入りはギャグとかで和ませた方がいいよね!)

“今日もブンブンしてたよ!”

(いやいやいや! それじゃあ逆効果だって!)

 スマホを放り投げて「はあぁ~」と大きくため息をついた。
 今回のことは詮索しないでおこう。私は言葉で人を救う力を持ち合わせていないし、そもそも、そういうのには抵抗を感じていた。だから、言えるときがきたら黙って全部聞いてあげよう。
 明日は「欅って、書けない?」の収録だ。スタッフが慌ただしく動いていたことからして、きっと重大発表があるに違いない。

 夏の兆しを感じながら、ふあぁっと一つ欠伸をした。

 佑唯ちゃん。
 私は自分が「ゆい」という名前で良かったと思ってるよ。運命的な出会いとも思ってるよ。それぐらい、私にとって佑唯ちゃんは必要な存在になっちゃってるよ。だから。
 「同じ名前がいてよかった」と思えてもらえるように、佑唯ちゃんの力になりたいな––––。

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