沈思

「宇宙ってさ、なんで”宇宙”やと思う?」

 いきなりの出題に当惑するが、ねるはにこやかな顔を崩さないまま顔を傾げた。考えてみれば、何故「宇宙」なのか考えたこともなかった。しかし、宇宙に対してロマンも感じなければ、関心もない私にとってはどうでも良いことだった。欠伸を噛み殺して、目を潤ませながら「さあ?」と答えた。

「宇宙って言葉には色んな説があるらしいんだけど。ラテン語では『universus』て言うさね」

「ユニバーサス……」

「『uni』は『ひとつに』という意味で、『versus』は『向きを変えた』って意味で。つまり『ひとつの目的をもった共同体』って意味になるわけ」

 一つの目的をもった共同体。

「バーサスって今ではよく使われるけど、その言葉ん語源はuniversusから生まれたんだよ。だけん、ライバルと相棒は紙一重と思っとる」

 ライバル。相棒。
 二つの単語が、私の中で流星群のようにヒュンヒュンと音を立てて駆け巡っていった。

「いつか……ひらがなけやきとして対峙する時がくると思う」

 ねるがようやく私に向き直った。

「そん時は、てちと並んでも、競うことになっても、恥ずかしなかような存在になりたい」

 希望に満ちた眼で私を見ていた。そして私たちの間に張ったはずのバリアが突破され、爽やかな風がびゅうと吹いて私の頬を撫でていく。そして甘酸っぱいものがじわりと心に浸み出した。私の警戒心はすっかり解けていた。

 深海に差し伸べるように太陽の光が届いて、濃い藍色の周りがどんどん青い輝きを取り戻していく––––。

 心が快復するとともに、思慕の情が湧き上がってくるのに気づいた。
 これは恋なのか? それとも、性愛なのか? それとも、それ以上のなにか?
 どちらにせよ、私とねるとの間には友情じゃないなにかがうごめいているのを確信して、緩めていた警戒を急激に緊張させた。

 それから1ヶ月ほどして、有明コロシアムでの欅坂ワンマンライブが発表された。

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