混乱

 土田と澤部、MCの二人がカメラの前で、いつもより真剣な面持ちでスタンバイしている。椅子に座っている笑顔のないアイドルたちをモニターは映し出していた。ファーストシングル選抜発表の時と似たような、重苦しい雰囲気が漂う。
 収録開始の合図が入ると同時に、澤部が番組コールを行なった。それはいつもと違うコールだった。

「欅坂46セカンドシングル選抜メンバー大発表ゥー!」

 やはりそうか、と分かっていても、私は力なく肩を落としてしまう。

「手紙を預かっております」

 澤部は一通の手紙を手にしていた。この日が来るまで、きっと皆、そう思ったに違いない。

(次のシングルは全員選抜なのか、それとも––––)

 澤部が封を開けて、読み出す。

「メンバーの皆さんに本日ご報告があります。セカンドシングルの発売が8月10日に決定致しました」

 4月6日のデビューが昨日のように思えた。欅坂に入ってから時間の進みが速くなったように思う。
 学校に行っても虚しいまま、ぼんやりと過ごしていた加入前の自分が信じられないくらい、アイドル業に忙殺されていた。何もかもが新鮮で、訳がわからないまま時だけが過ぎていく。あっという間に16、17歳と年を重ね、気付いたら20歳を迎え、周りのメンバーたちはいなくなっているのだろうかと思うと少し怖くなった。

「セカンドシングルを歌うメンバーは」

 全員が固唾かたずみ、澤部の次の言葉を待っていた。

 

欅坂21名です。欅坂46の20名とけやき坂46の長濱ねるの合計21名となります––––。

 

 発表された瞬間、皆は沈黙を破って、ねるに祝福の声をかけた。ねるはウッと泣き出した。
 笑顔の無かったアイドルたちは一人の少女に「良かったね」と祝福したり、我が身のように嬉し涙を流したりしていた。

なお、長濱ねるは欅坂46とけやき坂46の兼任となります」

 感極まったのか、ねるは赤くなった目を押さえながらコメントした。

「信じられないのと、みんながこっちを向いて喜んでくれたのが嬉しかったです」

 以前、ねるから聞いた言葉が蘇る。

私、怖いの–––––。

 ねると共に戦えることがなによりも嬉しくて、私も涙を流した。
 一回カットが入り、休憩を挟んだ。私たちは一回スタジオから離れると、番組スタッフたちが忙しく椅子を並べ替え始めている。
 感動の演出はこれで終わり。次は残酷ショーだ。

 

 

 フォーメーション発表に入った。
 前回は2列目だった尾関、フロントだった小林と鈴本が下がる形となった以外は基本的にあまり変わらなかった。
 初選抜のねるは13番目に呼ばれ、2列目の真ん中付近に配置された。続いて緊迫のフロントメンバーの発表に入ると、アドレナリンが急上昇し、胸が締め付けられるのを覚えた。

今泉佑唯
志田愛佳
渡邊理佐––––

 次々とメンバーの名前が呼ばれ、とうとう残るは私と梨加ちゃんの二人となった。今にでも梨加ちゃんに抱きつきたいくらい、私は追い詰められていた。
 仲間達の視線が、MCの2人の視線が、カメラの視線が、痛い。

(お願い、梨加ちゃん。置いてかないで–––––)

「渡辺梨加」

 全身から力が抜け、静かに頭を垂れる。

(また選ばれた、センターに)

 センターポジション。グループの顔。言い換えれば、グループ全体の責任を背負わされ、バッシングの対象にもなる存在。それでもグループの代表である以上、ファンの前で弱音を吐くことは許されない孤高ここうの戦士。
 恐ろしいほどの不安と恐怖とプレッシャーがしかかる。考えても仕方ないのは分かっていても、どうしても良からぬ事態が頭をよぎってしまう。

 

 戦いが終わっても、次の戦いが来る。それも、休む間を与えてくれないほどに。私は欅坂46にいる限り、武器を置くことは許されないのだろうか––––。

 

 今にでも泣き喚きたいくらい、不安に駆られていた。

「センター、平手友梨奈!」

 呼ばれると同時に涙がこぼれた。これは、嬉し涙なんかじゃない。不安から生まれた涙だった。
 ガクガクと震える足でなんとかセンターの位置まで運ぶ。そして、私はカメラに向けて、センターへの意気込みを語った。

「1stシングルセンターに立たせていただいて大変さとかもわかった分、プレッシャー感じる部分とかがあって不安しかないんですけど……今回も良い作品にしたいと思います」

 震える唇をなんとか動かして、どうにか言葉をつむいだ。

「いろんな方を勇気づけたいと思います」

 私が着実に進んでいる道がいきなり、四方に分かれだした。その先から更に四方へと分かれ、先の見えない道に私は愕然がくぜんとして膝をついたように、収録が終わった後、私は崩れるように泣きだした。

「大丈夫?」

 梨加ちゃんが私の背中をさすりながら声をかけてきた。梨加ちゃんは泣いている私に肩を貸して、スタジオから連れだしてくれた。

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