ノーパンの刑

「葵ちゃん、今日も可愛いね」

「本当ですか? やった、ありがとうございます~! またね~」

 

「こんちは~明日は学校だよね? ランドセル背負しょっていくの?」

「もう~小学生じゃないですぅ!」

 

 今日は個別握手会。3列目の私にとっては少しでも多くのファンを獲得する、大事なチャンスの場でもあるのだ。なのに––––。私を応援してくださってる人たちが遠くから来てくれているのに、私はというと下半身に意識がいってしまい、ちゃんと返事するのに必死だった。
 私の頭の中は、ファンのことと、スースーする下半身と、そしてどんなお仕置きが待っているのか、でいっぱいだった。

(私はいけない子です––––)

 

 

 午前の部を終えて、昼休みに入る。ずっと立ちっぱなしだったのですぐにでも座りたい気分だった。それなのに、膝上丈のスカートを履いているせいで座るに座れないのがもどかしい。

 休憩ブースには毎度お馴染なじみのケータリングサービスが行われており、食べ盛りのメンバーたちが群がるように集まっていた。
 私は下半身を気にしつつ、人気のないアメリカンドッグを取ろうとした、その時だった。アメリカンドッグが並べられたテーブルを挟んだ向かいに志田が来たことで、仰々ぎょうぎょうしく反応してしまう。

「おい、ちび! ちゃんと食えよ~倒れっぞ」

「もう、ちびじゃないし!」

 志田の笑顔にちくりと良心が痛む。私はなんだか申し訳なくなって目を合わせられなかった。

「なにがあるのー?」

 後ろからしたハスキーな声に振り返ろうとしたところで、ビクッと身を震わせた。理佐の手が、私のお尻をでていたのだから。理佐の体温がスカートを通してリアルに伝わる。
 慌てて後方を確認する。人はいなかった。食べ物が並んでいるテーブルに隠れるようにして下半身が充分に見えないのをいいことに、私のお尻をいやらしい手つきでさすってくる。

 もしも今、私が持っているトレイを落としたら。
 もしも今、後ろにメンバーが通って目撃したら。
 もしも今、志田にバレてしまったら。

 トレイを持つ手が汗ばむ。

(我慢、我慢––––)

 志田は怪訝けげんそうに私を見て言った。

「どした? ビクビクして。理佐いじめすぎだって、禁断症状みたいなの出てるじゃん」

「だーかーら、いじめてないし。仲良しだよね~?」

 愛嬌たっぷりな笑顔を向けながら私のお尻をぎゅっと鷲掴わしづかみにした。
 彼女を前に、他の女の子に手を出すスリルを楽しんでいるのだろうか。理佐が浮かべている笑顔は嗜虐しぎゃく的な愉悦ゆえつの笑みだ。

 微笑ましく笑っている志田は私たちを見てきっとそう思っているのだろう。仲良しな姉妹のようだ、と。罪悪感を感じつつ、懸命に作った笑顔で返事する。

「うん、仲良し!」

 小学生レベルの自慢かもしれないが、これまでに宿題は忘れずにやってきたし、遅刻もした記憶がないし、厳しい校則にも従ってきた。わりかし優等生として過ごしてきた私が今、仲間を前に仲間と怪しい関係にある人を寝取るような立場にいる。いけないことをしているのに、胸をこんなにときめかせている私は––––。

「(悪い子)」

 理佐が口パクでそう伝えて来たあと、口を三日月のように綺麗な弧を描いて笑った。しかし、目は笑っていない。
 瞳はまるで私の今の心情を見通しているかのようだ。そして、口元を吊り上げた笑みはまるで楽しんでるかのようだ。恨めしいのに、愛おしく感じてしまった私は共犯者だ。

 休みたい欲求は吹き飛んだ。すぐにでも午後の部が始まってほしかった。

 

 

 昼休みが終わり、握手会場は活気を取り戻している。
 ファンと話している最中のことだった。

「葵ちゃん、本当にかわいいね。学校大変?」

「そうなんですよ、宿題が多くて……」

 ファンが明後日の方向を見ながら聞いていたことに気付く。私はその視線を追って振り返ると、ちょうど下敷きらしきものを団扇うちわ代わりにパタパタとあおいでいる理佐が通っていた。理佐の姿を見るだけで私は胸をときめかせた。
 熱い視線に気付いたらしい理佐は軽いしかめっ面を作り、顎で「そっち見ろ」と合図してきた。ファンが話しかけていたことに気づき、我に返った私は慌てて向かい合う。

「ごめんなさい! それでなんの話でした?」

「いやね、学校が大変だって話を」

 後方から突如強い風が吹き、スカートを大きく揺らした。涼しい風が下肢の肌を撫でるように吹き抜ける。
 理佐が手に持った下敷きで思い切り扇いできたのだった。スカートがふわりと大きくめくれたのを慌てて押さえる。

「ちょっちょっと……!」

 前のファンは慌てて下を向いた。顔はとんでもなく赤い。私も顔を赤くしていた。幸い正面には仕切りがあるため、スカートの中身は見られていない。しかし、後面は大きく捲れ、私のお尻から足首にかけてあられもない姿は理佐に見られた。

「ただのファンサービス」

 理佐は涼しい顔で言うと、口笛吹きながらどこかへと行った。この後の握手会は終わるまで集中できずにいた。

 

 

 握手会を終えた今、私は疲労感でくたくたになっていた。早く家に帰りたい。
 廊下を力なく歩いていると、背後から抱きつかれた。私の頭上からハスキーな声がする。

「葵、XX号室の会議室に行こ?」

 私のお仕置きはまだ終わらない––––。

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