理佐は会議室のドアを開けると、私を先に入れた。続いて理佐が入るとガチャリと鍵が締められる音を聞いた。
理佐は何食わぬ顔をして、テーブルをトントンと叩いている。
「はい、テーブルに手ついて」
私は上目遣いで理佐を睨むように見る。言いたいことは山ほどあった。まず、握手会だって立派な仕事のひとつだ。特に私のような3列目メンバーはファンを蔑ろにするわけにもいかない。もう二度とあのようなことをしないでほしい。
説教を始めようとした矢先だった。
「なに? キスしたくないの?」
この一言で理佐に対する不満はあっけなく消えた。アイドルとしての私はおやすみの時間に入る。そして、ゆっくりと“オンナとしての私”の顔がのぞかせる。
言われる通りにテーブルに手をつく。理佐は私の後ろに回ると、腰を掴んでは強引に引き寄せた。お尻を理佐に突き出す格好だ。いきなりスカートを捲られ、私の下半身が露わになる。
「嫌っ!」
反射的に身を翻すと、理佐の美しい顔が迫った。
「やめる? こういうこと」
理佐のやや垂れ目がちな瞳が獲物を狙う鷹のように鋭いものとなって、私の瞳を射抜くように見ている。その瞳に容赦の気配はない。追い詰められた動物はあとは、大人しく喰われるだけだ––––。
「ずるい、よ……」
「ね? 大人しく机について?」
「下までは……み、見ないで」
「ふふふっ、わかった」
私は再度、テーブルに両手をついて、おずおずと尻を突き出した。ゆっくりと焦らすようにスカートが捲られた。
ノーブラの時とはまた違った羞恥が私の頰を勝手に彩る。
「胸だけではなくお尻も寂しいんだね」
「う、うるさい! おっきくなるかもしれないじゃん……」
理佐ははいはい、と返事をしながら私の太ももに指を這わせた。つーっと、触れるか触れないか絶妙なタッチで私の太ももをなぞるように撫で上げている。くすぐったさと微かな快感を覚え、無意識によじらせてしまう。
「なに動いてんの、動いちゃダメ!」
(なにそのルール、聞いてない!)
太腿を撫でる手がゆっくりとお尻の方へ移動する。恥ずかしさのあまり理佐の方を振り向く。この時の私はノーブラの時と同じように撫でて終わりだろうと予想していた。甘かった。理佐のサディストさを舐めていた。
バチンッ
私のお尻に平手打ちが飛んで来た。
「あっ!」
「静かに!」
この時、子供が悪さをして親にお仕置きをされている光景が脳裏に浮かんだ。どこまで私を子供扱いする気なのか。屈辱で全身が熱くなる。
「なんでペンペンするの……」
「なんか叩きなくなっちゃって」
「このドS!」
「なに? こんなに優しくしてるのにー?」
再びフェザータッチで撫でてくる。
(ああ、またこの触り方……)
少し骨ばった理佐の指先とは対照的に繊細なタッチに、私はたまらず熱い吐息を漏らす。卑猥な撫で方で連なる円を描くように、私のお尻を撫で回している。たまらず私はぴくぴくと太ももを震わせる。
バチンッ
二度目の平手打ちが叩かれていないほうのお尻に飛ぶ。これは一体なんのプレイだろうか。こういったことには勉強不足の私にとって何が好いのか解らなかった。ただ、理佐が楽しんでいるのが見て取れた。
理佐は小ぶりのお尻に指を泳がせた。泳がせながら弄んでいる動きに、私は素直にもびくっとお尻を震わせて反応した。
バチンッ
「やっ!」
志田にも同じようなことをしているのだろうか。想像し難かった。もしかしたら志田には出来ない、理佐の性癖を私で発散しているのではないか。モヤモヤしたものが私の頭の中を巡った。しかし、考えるのもやめた。
バチンッ
平手打ちしては撫で撫で、のルーティンに翻弄されるように腰をくねらす。すると、ほら。
バチンッ
私は理佐とこういう遊びを重ねるたびに頭がおかしくなる。叩かれているというのに、私の股間は熱を帯びるのだ。これは、生理現象なのだろうか。
バチンッ
「やだぁ!」
そう言ったけれど、口先とは別にもっと可愛がってもらうようにお尻を突き上げていた。望み通りに、とばかりに優しく撫でてきて、気持ち良さにくねらすと––––。
バチンッ
くすぐったさと快感とはまた別に、まるでスパンキングを催促しているかのように身をよじらせている自分がいた。私は恥を忍んではしたなくおねだりする。しかし、叩く気配はない。理佐の方が一枚上手だった。
焦らすように指先で一番感じるところをくすぐっている。
「んん……」
「鳥肌立ってるけど、葵って敏感なんだ?」
敏感ポイントを見つけた理佐は執拗にそこを責め続けている。クスクスと笑って可愛い、と言った。かぁっと恥ずかしくなる。
太ももの内側に手を這わせてきて、背筋がぞくぞくして、座り込みそうになるのを堪えながら下半身をくねらせた。股のところがぬめっているのがバレないか焦っていたら。
バチンッ
7回の平手打ちを受けて、私のお尻はじんわりと痛いから熱い感覚になってゆく。
「んっ……」
「私の手痛いんだけど」
理佐は呆れたような表情を浮かべて、手をブンブンと振って見せている。しかし、込み上げてくる笑みがこらえきれないのが丸わかりだ。
痛みを訴えるように赤くなっているであろう、私のお尻を愛おしそうに撫でさする。
「ごぼう色なのに赤くなっちゃってるの、分かるよ」
(肌の色は理佐も人のこと言えないんじゃないの!)
思わず反発しそうになったが、本気で怒られそうなので口を噤んだ。
「葵のくせに、なんか色っぽい」
私のお尻にそう話しかけた後、スパンキングとは違った、ずきんと鋭い痛みが走る。それから、暖かい吐息を感じた。理佐が私のお尻をがぶりと噛んでいるのが分かると、ぞくっと攣えた。
「うぅっ……!」
「葵のお尻、食べたい」
私はキュッと膣内が熱くなるのを覚えた。
(私、すごくエッチだったんだ––––)
スカートを戻しては埃を払い、私を起き上がらせるとそこには理佐の優しい笑顔があった。さっきまでとは別人のようだ。
「よく出来ました」
お待ちかねのご褒美のキスを私に投げる。
(気持ち、いい……)
「待って、もう一回……」
私の唇から離れる理佐を止めて、ねだるように理佐の首に手を回した。
あれだけ激しいお仕置きを受けてキス1回じゃあ割に合わない。心も身体も理佐を求めている事実を隠すように、自分の心にそう言い訳した。
「んー?」
理佐は素直にキスに応える。柔らかくて温かい理佐の唇を存分に堪能する。私を強く抱きしめてくれているのが切ないながらも心を満たしてくれた。
キスにまだ不慣れな私は一回、息継ぎに離れる。理佐の唇を愛おしそうに見つめながら訊いた。
「次は……?」
理佐はきょとんとした。
「なに? いじめてほしいの? ほんと、ドMだね」
「違う、違うし!」
慌てて否定したら「次はわかんないから無しで」と、言われてしまった。落胆の思いが押し寄せてくる。
(もう飽きられたってこと?)
確かに私は志田ちゃんほど美人じゃないし、大人っぽくないし、色気ないし。退屈な女かもしれないけど、好きという想いだけはどうしても譲れない。
涙を浮かばせながらすがるように理佐の腕を引っ張る。
「やだっ、なんでもするから……やめたくない!」
理佐は呆気にとられたが、すぐに、くくくっと笑った。
「やめるなんて言ってないでしょ」
理佐は優しく微笑むと唇を寄せてきた。長いキスだった。
私の唇を食むように噛みながら言った。
「楽しみにしてて」