「葵、ちょっと」
理佐が涙を拭ったティッシュをゴミ箱に捨てると、冬優花を退けて私の元に来た。「ほら立って! なんで早く立たないの」と、私の二の腕を引っ張って立ち上がらせると耳元で囁いた。
「怒られたいの?」
彼女は振り返ると冬優花に笑顔で言った。さっきまでは私にサディスティックな言葉を放った、その口で。
「そうだ、葵話すことがあるから先に帰ってて!」
「いじめんなよー! うそうそ、わかった。また明日ね~」
笑いながら「いじめねーよ」と返した理佐は私を引っ張ったまま、私が告白したあの部屋に連れていった。私を部屋に入れて、目の前でドアの鍵をかける。
これから一体何が始まるんだろうか、期待と恐怖で足をもじもじしながら理佐に尋ねた。
「なんの話?」
「なんの話だろうね」
理佐はゆっくりと距離を詰め、私も一緒に後ろへ下がると、壁に背がついた。続けて、理佐も片手をついた。美しい顔が間近にあって、不意に胸が苦しくなる。私はどうしてもその形のいい唇を凝視してしまう。
「約束、守った?」
「守ったよ」
「後ろ向いて、ほら」
言われる通りに理佐に背中を向けると、私の首元に彼女の手がかかる。そして、ジジジ……と衣装のファスナーが下げられる音を聴いた。腰辺りまで下げると、背中が涼しくなる。はだけた背中が見られているということに、初心な私は赤面しているのを感じながら俯くしかなかった。
約束通り、ブラジャーを着けていないのを確認した理佐は「いい子~」と両頬に深い笑い皺を刻んだ。キュン、とときめく。私は理佐のキリリとしたキメ顔も綺麗で好きだけど、愛嬌たっぷりな笑顔がなによりも好きだった。
再度、私を向かい合うようにすると、服の上からつーっとなぞってきた。理佐の指先が胸の先端に近づくにつれて私の全神経が集中する。
「今日一日、ずっとそわそわしてたでしょ」
(理佐のせいで収録に集中できなかったんだからね!)
私は呪うように、少しの反抗ばかりと頰を膨らませた。
「だって、理佐が変なこと命令するから……!」
「気にしなくてもいいのに。どうせ無いくせに」
カッと顔が赤くなる。胸がないのは数多いコンプレックスの中の一つでもあった。顔だけではなくスタイルもいい理佐にはきっと分からないんだ。私は思わず虚勢を張った。
「う、うるさい、あるもん!」
「ほんと? じゃ、見せてよ」
理佐は勝ち誇るように、含み笑いを浮かべている。
(しまった!)
「ほら、早く見せて。あるんでしょ?」
「ええっ、誰か来たら……」
タイミングよく理佐の持っていたスマホが鳴り、ホーム画面が現れる。志田ちゃんからのライン通知だった。理佐はスマホ画面を眺めて、チラリとこちらを見た。そして、「もういいよ、私帰る」とふくれるような表情で言った。
「やだ、待って!」
帰ろうとドアに向かって歩き出す理佐を後ろから抱きしめる。理佐らしくない、甘く柔らかい香りがほのかにした。
「待てない。3、2……」
「やだ、見せるから! 理佐のいじわる……」
女同士の裸なんて、学校の林間学校とかの浴場イベントで見せ合う機会があるし、恥ずかしくないのに。好きな人に上半身を曝け出すなんて……顔から火が出る思いだった。目に涙を浮かべて訴えるほど、理佐はますます笑顔を浮かべているのだった。
意を決して、上半身だけ脱いで、好きな人の前に初めて裸体を見せる。おずおずと顔を上げると、好きな人は笑顔が消えていった。不満らしかった。
「……なに絆創膏はってんの?」
「だって、浮いてるの見えちゃったら」
「取って」
「えっ……」
好きな人は本当に意地悪だった。
(それじゃあ、大事な部分が見えちゃうじゃん、貼った意味がないじゃん。そんなの恥ずかしくて出来ないよ!)
もじもじしながら動かない私に、やきもきした理佐は私の絆創膏に手をかけた。
「もういい、私が剥がすね」
「あっ、駄目!」
抵抗するも、理佐の手はピクリともせず、私の絆創膏をゆっくり剥がしていった。私のあまり豊かではない乳が少しばかり持ち上げられる。
「痛っ、痛いってば!」
絆創膏の三分の一ぐらい剥がすと、痛みがフッと消えた。片方のテープ部分が剥がし終わり、ガーゼ部分の剥がしにかかっていたからだ。ということは。
「駄目っ! お願い、見ないで……」
必死に懇願するも、彼女にとってはかえって逆効果でしかなかった。懇願もむなしく、勿体ぶるようにゆっくりと捲られ、ガーゼの下が露わになる。処女には堪え難い羞恥だった。好きな人の反応を確認する余裕も当然ながら、なかった。
しかし、そんな私に容赦のない言葉がかけられた。
「最後まで剥がさなくっちゃ」
理佐の瞳がいたずらっぽく光ると、一気に剥がした。
「あっ、痛っ!」
勢いよく剥がされた痛みで乳首を押さえる。理佐は剥がした絆創膏を丸めながら、押さえる手をどかして、乳輪に話しかけてきた。
「赤くなっちゃって、可哀想。撫でてあげる」
指先で私の乳輪をなぞるように、撫でてきた。全身にアドレナリンが駆け巡り、躰に慄えが走った。私は初めて性的興奮を覚えた。
「勃ってるよ、見かけによらず遊んでんだ?」
「あ、遊んでないよ! こういうのしたことないのに……ひどい」
私の反応が面白いのか笑いがこらえきれず、肩を震わせながら「ふふふっ」とこぼした。初心な反応をからかわれているような気がして、悔しくなった私は思わず挑戦的な態度に出てしまった。
「彼女いるのに、なんでこんなことするの!」
理佐の笑顔が消え、急に真顔になって私を見た。
「はっ?」
美人の真顔は怖くて怯んでしまうが、どうしても不安を払拭したかった。
「志田ちゃ……あぁっ!」
最後まで聞かずに、ぎゅっときつく乳首を摘んできた。
「愛佳のことはもう口に出さないで」
理佐は私が首を縦に振るのを確認すると、摘んだ指の力を緩んで、そっと撫で始めた。しばらくは押し潰したり、優しく摘んだり、弾いたりして私の乳首を玩具のように弄んでいる。
私は身体に違和感を覚えた。可笑しなことに、下半身が熱くなったのだ。パンティがしっとりとしている。熱い液体が溢れ出したのか、ヌルヌルになっていく感触がした。
「こっちも触っ、て」
私の口から信じられない言葉が出た。自らエッチなことをお願いするなんて、興奮でとうとう頭がおかしくなったのだろうか。
「んー?」
理佐は惚けた反応をとった。
「もう。いじわるしないで……」
「こっちって、どこどこ~?」
次はわざとらしく当たりを見回す三文芝居を繰り出している。ならば、サディスティックな彼女が喜びそうなことをしなければいけない。
(理佐は意地悪な人だから、ちゃんとおねだりしなきゃ)
私は熱っぽい瞳を潤ませつつ理佐に向けながら、自分の左胸の方を指差した。理佐の顔が優越感でほころぶ。
「じゃあ、そっちの絆創膏も剥がさなきゃね」
「あ、やっぱだめ!」
なんの躊躇もなく、絆創膏を剥がしてきた。理佐は上目遣いに「触ってって言ったの誰?」と、訊いてきた。どうやら、私は本当に頭がおかしくなったらしい。理佐のサディストな表情を見ただけで、ますます興奮するのであった。
今度は最後まで優しく剥がしてくれた。私の双丘の乳嘴が露わになったところで理佐が立ち上がり、私の頭を少し乱暴に撫でる。
「ふふっ、よく出来ました」
撫で終わると、理佐の美しい顔が至近距離まで詰めてくる。こうして私は、3度目のキスをされた。
さきほどの変なお仕置きよりも、このキスが何よりも心地よかった。すると、不意にスカートの中に手が入れられた。
「えっ、あっ!」
パンツを一気に下げてくる手を思わず制する。私のパンティは膝上のところで止まった。
「次は」
私は形のいい唇を凝視して、ゴクリと喉を鳴らした。次のお仕置きはなんだろうか、と。
「ノーパンで来て」