ノーブラの刑

 昨日、スタッフが騒々そうぞうしく動いていた理由は、今日のセカンドシングル選抜発表の収録のためだった。
 私は予想通り、3列目で名前を呼ばれた。落ち込んでないといえば嘘になるが、向こうの椅子に座って呼ばれるのを待っている仲間たちを見て、自分がその仲間たちと並んでいる図が想像できなかったのも、事実だった。そして、全員選抜という嬉しさもあった。安心感を覚える自分に危機感を覚えるくらいだ。

(ちょっと私、安心してどうするの。次のサードシングルは全員選抜じゃないかも知れないんだよ––––)

 まだ先のことなのに、得体の知れない不安に駆られてしまう。

 フロントの発表に入り、まだ呼ばれていない仲間たちの表情が一層けわしくなる。ピンと張り詰めた空気が漂う。
 今泉、志田と続いて理佐が呼ばれた。前回より躍進やくしんしてのフロント入りだ。ところが、理佐は喜ぶ風でもなく、静かに涙を流していた。この時の理佐が言葉にし難いくらい綺麗で、私は胸がチクチク痛み、急に切なくなった。理佐の背中がいつもより小さく感じた。

 

 

 収録後、腕組みながらそわそわしている私に心配したのか、小池が「寒いん?」と優しく声をかけてきた。「いや、少しだけ。大丈夫、大丈夫!」と、悟られまいと慌てて答える。小池は怪訝けげんな顔をしつつも、すぐにニッと笑顔で返してくれた。

(危なかった、みーちゃんで良かった……って、全然大丈夫じゃない!)

 クーラーの風がいつもより寒く感じる。どうしても胸に意識が行ってしまい、バレるんじゃないかと気が気じゃなかった。今日は選抜発表で大事な日だというのに、私は収録に集中できなかった。

 ちょうど隣でメンバーとふざけ合っていた冬優花がバランスを崩して、私に倒れかかってきた。冬優花を受け止めようとしたところで、彼女の腕が私の胸に当たる。

「あっ!」

 冬優花の腕の感触がリアルに伝わり、全身の力が一気に抜けて、そのままへたりこんでしまった。

「葵、ごめん! 大丈夫?」

 申し訳なさそうな顔を浮かべている冬優花の後ろで、ティッシュで涙を拭っている理佐の口元がかすかに歪んだ。

 私は、今、お仕置きを受けています––––。

 

 

 私は昨日、勇気を出して理佐に告白した。恋のライバルはあの志田ちゃんだ。かなうはずもない。しかし、初めて抱く恋心はとどまることを知らず、青臭い衝動に駆られて玉砕ぎょくさい覚悟で想いを打ち明けた。

 しゃくりあげて泣いたせいで声が言葉にならなく、気持ちを上手く伝えることができなかった私は強引に理佐を引き寄せて、キスした。自分ってこんな大胆な性格していたんだろうか、と自分でも驚く。

 初めてのキスはレモンの味はしなかったけど、とても柔らかくて、身も心もとろけそうな恍惚こうこつ感を覚えた。しかし、理佐とのキスは最初で最後になるのかあ、と思うと悲しくてまた涙が止まらなくなった。

 もう2度と重なることはないだろうと思っていた唇は今、私の唇と重なっている。驚きとで心臓が激しく動悸する。形のいい唇は一回私から離れると、今度は耳元に近づいてささやいた。

 

毎日可愛がってあげる––––

 

 すっかり有頂天うちょうてんになっている私を見ながらクスクスと笑っている、好きな人は私の耳たぶをもてあそんだりしながら言った。

「葵、明日さ」

「う、うん!」

 早速、デートのお誘いかと思った私はしきりに首を振る。しかし。いきなり私の服の中に手を入れてきた。予想の斜め上をいく行為に私は体をこわばらせた。

「えっ……え?」

(いきなり!? 早くない!? 私、まだ––––)

 プチンと、ブラジャーのホックが外れる感触がした。同時に、胸が軽くなる。理佐は薄笑いを見せて言った。

「明日、ノーブラで来て」

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