5月8日。
ねるが加入して「けやき坂」の募集を発表してから半年後、正式に発足された。
ねるを除く11名のメンバーの最終オーディション合格発表がテレビにて公開された。私たちの加入当初を思い出させるような初々しい面立ちの中に、ねるがセンターに立ち、コメントをした。
「やっとみなさんと一緒に活動できるのが凄く嬉しいです」––––
「やっと、仲間が来たね」
ポジティブな感じに持って行こうとするが、ねるの表情はまだ暗かった。
「私、怖いの」
ねるは俯きながら、震えた声で話した。私は何も言わず、ねるに寄り添って耳を傾ける。
「だって、私は外から欅坂を見ているから。てちがどんなに辛くて、どんなに孤独か。見えちゃうの……」
ねるはグループは違うのに、一番付き合いが短いのに、誰よりも分かってくれる。ねるが皆と打ち解けてない中、私と急接近できたのも似たような境遇があったからなのかもしれない。
ねるは物理的に孤独で、私は精神的に孤独だった––––。
「うん。でも、皆、自分のことで精一杯だからしょうがないよ」
皆と仲が悪いわけでもない。ただ、皆、若いだけ。仮に、自分がセンターじゃなく欅坂46の一員だったらきっと、自分のことで精一杯で、センターを支える余裕なんてできなかっただろう。
ねるの手が、私の手に重ねて来た。
「だから、てちのことは支えなきゃって思うの」
愛嬌たっぷりな垂れ目が、真剣なものとなって私を見つめている。「ありがとう」と返した。
「なのに……今度は自分がいざ、ひらがなけやきでの中心の立場となると。怖くなっちゃった」
「無理もないよ」
「支えなきゃと思ったのに。もしかしたら、打ち解けず、こっちでも孤独になっちゃうんじゃないかって。ダメだ、自分も結局自分のことばかり……」
ねるが負の感情に溺れる前に、手を差し伸べた。私の手の上に重ねているねるの手の上に、更に私の手を重ねる。
「支えるって言ってくれたじゃん? それがすごく嬉しくてさ。だから」
私が映る、大きな垂れ目の瞳が潤んでいる。
「今度は私が、ねるを支えるよ」
ねるは目をぎゅっと瞑り、瞳に溜まっていた涙が弾ける。まるで漫画のような泣き方だった。
「一緒に、頑張ろう」
私には、心の支えになっている人がいる。
恋人の梨加ちゃんと、戦友のねるちゃんだ。
日が昇り、空は青みを帯びてきている。そこでぎゅるるると、空気を読まずに私のお腹が鳴った。
「はははっ! 今のやば~い!」
ねるは泣き笑うように破顔した。やっぱり、ねるは笑顔が一番似合う。私にとって、ねるは気になってしょうがない存在だった。
(昨晩、張り切っちゃったからかな……)
「帰ろか!」
欅坂46に加入してから二度目の夏が近づいている。今年の夏は、すごいことが起きる予感がした。
私たちは戻った。仲間の元に、恋人の元に––––。
––––––––––To be continued.