収録後の、楽屋にて。
皆が帰り仕度を始めるなかで、私はいつものように皆とは少し離れたところで、一人で歌の練習をしていた。本当は小林と一緒にやる予定だったが、彼女はまだ仕事が残っており、遅れてくるらしかった。
義務教育を受けなければいけない平手は、慌ただしく楽屋を後にした。平手が帰っていったのを確認した茜がいたずらな瞳をして、梨加ちゃんに肘でついている。
「ちょっと、ぺーちゃん。皆に報告しちゃったら?」
梨加ちゃんは顔を赤くして、唇噛みながらもじもじとしていた。
(なんの報告だろ? 多分、きっとどうでもいいことなんだろうな)
なになに、と皆、前のめりに梨加ちゃんに問い詰めるも、彼女の口から説明されることはなく、視線を泳がせるだけだった。最終的には茜に抱きついて顔を埋める。梨加ちゃんなりのギブアップのサインだった。
「もー、じゃあ私が代わりに言っちゃうよ?」
顔を埋めたまま、首を縦に振る梨加ちゃん。どうやら梨加ちゃんの通訳役の茜が代理で報告をしてくれるそうだ。この時、ヘッドホンをセットする志田の姿が目に入った。
(なんだ、志田ってば珍しく聞く気ないの?)
「実は、梨加ちゃんって。な~んと!」
うん、と皆が一体となって頷いて言う。私と志田だけが蚊帳の外のようだった。
(運転免許取りました! だとか、そんなところでしょ)
もったいぶったような表情をしている茜に、私は冷めた視線を送る。
(大げさな––––)
「てっちゃんと付き合ってるんだって!」
「えっ? ええぇ~っ!?」
「えっ……」
皆が驚く中、私も思わず一緒に漏らした。「付き合ってる」はまだ、規定内だった。問題は相手だ。平手の名前が挙がったということに、まだ頭が追いついてなかった。聞き間違いかと思った。
ここからメンバーたちの怒涛の質問攻めが始まる。私は頭の整理がつかず、ただ言葉のキャッチボールを目を追っているだけだった。
「なんでなんで? いつの間に!?」
メンバーが問い詰めると、茜の腕から“平手の恋人”がゆっくりと顔を見せた。顔は熱でもあるのかと心配するくらい、すごく赤かった。
「告白はどっちから!?」
「友梨奈ちゃん……から……」
ヒューと口笛だの、きゃああと黄色い声だの色々混じって、楽屋は混沌と化した。
(てっこから? 嘘でしょ? 嘘でしょ……)
ガンッと強く頭を叩かれたかのように、脳が痺れだしては、息が苦しくなってくる。