カーテンから漏れる微かな明かりが私の顔に当たり、目が覚める。時計を確認すると朝の5時前だった。
「あ、行かなきゃ……」
ランニングに行かなきゃ。
私は早朝のランニングを日課としていた。始めたきっかけは、体力づくりでも、精神安定でもあるし、もう一つの目的があったから。
起き上がろうとすると、胸に重みを感じた。柔らかな腕が私に乗っかかっていた。柔らかな腕の犯人は、隣で寝息をたてて私を抱きしめている。私たちは生まれたままの姿だった。私たちが初めて結ばれて以来、梨加ちゃんと毎晩、枕を共にしている。
仕事があるのに、ほぼ毎晩梨加ちゃんを求めた。身体の疲労感が心地よくもあった。なんだか半同棲のような感じがして、くすぐったい気持ちになる。
「梨加ちゃん、ちょっとごめんね」
梨加ちゃんを起こさないように、慎重に腕を退けてあげる。眠りが深いのか、退けても反応はなかった。
寝顔も魅入るほど美しい自慢の恋人の瞼に軽くキスをして、勝手に照れてしまった私はすぐに服を着て外に出た。
暁の光を浴びつつ、土手でランニングする。もうすぐ6月とはいえ、早朝は空気が澄んでいて、ほんの少し肌寒かった。川の向こうから吹いてくる潮の香りのする風を受けながら、川の真ん中に立つ高速道路にちらほら走っている車と競争する。こうしてランニングすると、考え事とかしなくて済む。
気持ちよく走っているところで、前方でストレッチをしながら休憩している姿を捉えた。見覚えのあるランニングウェアだった。私は、その人の名を呼んだ。
「ねるっ!」
ねるは驚いたような顔をして、私の方を見た。そして、笑顔になる。
「てちー!」
私のランニングの目的は体力づくりと、精神統一と、そして、ねるとコミュニケーションを取ることだった。ねるも一緒に横に並んで走る。
「まだ少し涼しいね!」
「じきに暑くなるよ」
「えーそれもなんかやだーやばくない? ねぇ」
このように、他愛もない話を交わしながら走る。
折り返し点に着いたところで、私とねるは階段に腰掛けて休憩をとった。いつものようにイヤフォンを半分こして歌を聴く。いつもは尾崎豊の歌だったが、今回はサイレントマジョリティーを聴いた。
「なんか、自分の声を聴くって変な感じ」
「すごいことじゃん!」
「えー」
~
君は君らしく生きて行く自由があるんだ
大人たちに支配されるな
初めから そう諦めてしまったら
僕らは何のために生まれたのか?
夢を見ることは時には孤独にもなるよ
誰もいない道を進むんだ
この世界は群れていても始まらない
Yesでいいのか?
サイレントマジョリティー––––
~
曲が終わると、ねるはイヤフォンを外した。その表情はどこか暗かった。きっとこのままではお互い押し黙ったまま、時間が過ぎてゆくだけだろう。だから。
「……ひらがなけやき、とうとう発足したね」
私の方から切り出した。ねるは私の方を見ながら切なそうな表情をして「うん」と、頷いた。