「私、最近なんか、変なんですよ……」
葵が神妙な顔で、会話に混ざってきた。
葵のルックスが幼いということもあり、まるで妹がお姉ちゃんに相談してる図に見える。小林は葵の話に興味があるのか、顔を上げて彼女を見た。
「葵ちゃん、何が変なの?」
「食べても背が伸びない悩み? こっちおいで~」
お姉ちゃん達は葵をあやすように子供扱いをする。
「違います! もう、子供扱いしないでください……」
葵はふくれ顔をした。
「どうしたのー?」
「最近、なんか、ドキドキするんですよ……」
この言葉にお姉ちゃん達は、はっとしてお互いに顔を見合わせると、きゃあきゃあと盛り上がった。小林も恋心が芽生えた彼女をかわいく思ったのか優しく微笑む。
「それ、恋じゃない!?」
「もしかして学校の子とか!?」
「恋愛はダメだよ~でも、片思いならいいんじゃない? だれ君?」
「あの、違うんです」
しかし、次の一言で皆の顔が凍りついた。
「理佐に……渡邊理佐に、ドキドキしちゃうんですよ」
お姉ちゃん達は思わぬ人物の登場に閉口した。そして、困ったようにお互い視線を泳がせている。目の前の結衣を見ると、あからさまにドン引きしていた。
「あ……え、理佐に?」
虹花が懸命に笑顔を作っていたが、それはぎこちなかった。
「……やっぱり変ですよね」
「ううん、理佐ちゃんかっこいいもんね。ふぁいとー」
梨加がなよなよとしたファイティングポーズを取りながら言う。
「えっ? ぺーちゃん?」
「ん?」
梨加はまたとぼけた表情を浮かべた。
(あらら。まさかとは思ったけどメンバーに、しかも同性に恋しちゃう子もいるんだね)
私は他人事のように思えたが、例の事件もあっちゃあちょっとは意識するもんなのかなとも思った。
平手とは「恋人」なんて薄っぺらい関係で終わるつもりはない。「恋人」という名のアクセサリーなら要らない。言葉では片付けられないような、関係になるだろう。
仮に、平手とそういう関係になったとしても。平手はきっと私を選ぶだろう。根拠のない自信だけはあったーー。