付き合うなら。

 テレビ局が来ている。控えでも聞こえるファンのエール。極度の緊張で今にでも口から心臓を吐き出しそうだった。ここまで緊張するのは人生初じゃなかろうか。リハーサルからずっと自分でも分かるくらい、表情は固かった。

 張り詰めた空気の中、隣には愛佳がいた。表情からは緊張しているのが読み取れなかった。彼女は憎たらしいことに、この際でも得意のポーカーフェイスを貫いていた。ばちりと視線がぶつかる。

「がんばろ!」

 彼女は切れ長の目を丸くして言った後、両手握りこぶしを作って突き出してきた。こぶしを合わせると、彼女は微笑を浮かべた。愛佳ほど微笑が似合うメンバーはいないと思う。弱気な愛佳を見て以来、ずっと心のどこかで引っ掛かっていたけどそれは杞憂に終わったみたいで一安心した。

 

 いよいよ本番数分前となり、態勢に入る。ステージのスクリーンでは欅坂46の進発を煽るようなPVが流れていた。また緊張で息が詰まりそうになるところで背中をポンと叩かれて、私も続いて愛佳の背中を叩く。愛佳の背中は逞しかった。彼女と一緒にいると気が楽で、楽しくて、落ち着く。母は言った。将来、一緒になる人はカッコいい人よりも、ホッとする人が一番だと。

 もしも私が女の子と付き合うなら愛佳がいいかもしれないと、ふと思った。

 平手が動き出し、同時に私たちも後に続く。
 愛佳には負けてばっかでいられない。心の中で感謝しつつ、愛佳の背中を追いながらステージへと歩み出した。

 今に見てて。私のかっこいいところ、見せるから。

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