~恋のキューピッドになりまーちゅん~
コンサート本番。これまでのギクシャクが嘘のように今日、二人が魅せたコンビネーションは過去最高の披露となった。
めでたく仲直り、というよりはアツアツという言葉がお似合いだった。
コンサートも終盤に差し掛かり、フィナーレにて、さやみるきーが振り返って私を見た。何か言っているが、観客の歓声で何言ってるのか分からなかった。読唇術で辛うじて読み取れた。
あ・り・が・と・う
その五文字の感謝の言葉を読み取った瞬間、走馬灯のように、大組閣の記憶が蘇った。
大事なことを思い出した。大組閣でAKB移籍発表された時、真っ先にさやみるきーの顔が思い浮かんだ。そして願ったんじゃなく、思ったんだったんだった。
この展開を全く予想だにしていなかった私の頭は真っ白だった。
ただ、一つ。思い浮かんだことがあった。
さやか。みゆき。
私は––––恩返しがしたい。
NMB48設立当初。山本彩、渡辺美優紀、山田菜々、そして私の四人。私は四番手だった。でも、年月が経つにつれて自分の序列がどんどん下がっていき、四番手からは没落した。
プライドもぐしゃぐしゃになって、自ら距離を置いた。そんな私をさやみるきーは前と変わらず話し掛けてきて、私が距離を置く分、二人はその距離を埋めてくれた。
卒業を考えていた矢先、AKB48移籍が決まり嬉しかった反面、さやみるきーが心残りだった。私は二人に何もしてあげてないと思った。だから、なにか恩返しがしたかった。
なんで、そんな大事なこと忘れて今まで寂しかった分、二人を自分のモノにしようだなんて馬鹿げたことしちゃったなぁ。結果、オーライだけども。
二人からのありがとう、だけでも嬉しかった。心持ちは晴れやかだった。憂う必要もない。
私はどうやら恋愛舞台では主役より脇役が似合うみたい。
りぽぽが茉由に近寄ってコソコソと聞いてきた。
「茉由、どんな魔法を使ったん? つか、彩と美優紀が茉由のことを恋のキューピッドみたいって言いよったで。どういうこと? てか何があったん?」
思わず笑いがこぼれた。二人の幸せそうな笑顔を見たら、恋のキューピッド役も悪くない、と思えた。私が、恋のキューピッドとして赤い糸を紡いだ肝心のカップルの様子を見ると、美優紀が彩の耳元で「す・き」と囁いて、彩が「わ・た・し・も」と囁き返し、お互いくすぐったい心地よさを共有するというバカップルっぷりを私達に見せつけていた。
私の出番はもう必要ないみたいやな。
これで心置きなく、秋葉原本店へ移籍出来る。秋葉原から二人の恋を応援するよ。
難波、いや、48グループ自慢のツートップに心からコングラーションを。
あ、茉由のヒロイン、秋葉原にて募集してまーちゅん!