難儀な恋

 或る夏の夕暮れ。
 森閑として人気がない林。そこは勢いのいい草むらが生い茂っており、向日葵が少し残った陽に照らされていた。爽やかな小川が流れ、土の匂いや水の匂いが澄んだ空気をつくり出していた。
 盛んに活動していた小動物や鳥達は、こちらへと向かって来る慌ただしい足音に驚くと、一様に散り身を隠した。

 静寂の中、ばたばたと足早に駆けてくる二人の女性の姿があった。
 二人は目的地に着くないや、肩で息をしていた。日が沈みかかっているとはいえど、猛暑。浴衣姿で急ぎ足で来たもんだから二人とも汗だく。空は朱色と群青色の綺麗なグラデーションで覆い尽くされていた。
 夜のお告げに応えるかのように、藪の方に一粒二粒と明滅した光の粒が蔓延するように舞っていた。ホタルだった。普段、東京じゃ見られない幻想的な光景が二人を優しく包む。

 藍色に染まった空に、一筋の線が昇るとそれは弾けた。夜空に花火がひとつ上がっていた。その美しさは肺が悲鳴を上げているということさえも忘れさせてくれた。花火のフラッシュを浴びた二人のうち、ちょっと背が大きい方のシルエットが、花火の方を指差した。

「見て見て! 始まったよ、花火大会!」

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