さてさて、どんな茉由の取り合いショーが始まるんでしょうか。
怖いもの見たさで二人の後を追った。私の取り合いの末、さやみるきーと三人でムフフな仲直りを空想したらたまらなくてますます足を速めた。
控え室を通り過ぎるところで、視界の片隅で二人の姿を捉えた。ゆっくりと音をたてないよう、控え室の開きっぱなしの無防備なドア外に近づいて、そこから覗いてみる。顔がちょい見えるぐらいの距離だった。
「しゃんとしてくれ。アイツ、茉由最後のコンサートや」
先に口を開いたのは彩だった。鋭く強い声で美優紀を咎めた。
「分かってる。やけど、調子悪いもんは悪い」
あっけらかんと答える美優紀に対して、彩に怒りの色が見えた。
「は? なんや、諦めるん?」
「諦めるってゆーてへんやろ? てゆーか、なんで私に当たり厳しいん!?」
二人の声のトーンが上がっていく。ヒステリック気味に彩に噛み付く美優紀。
「茉由とキスばっかしとるからや!」
彩は顔を真っ赤にして早口でまくし立てた。茉由は今度は少女漫画の主人公の気分だった。茉由は少女漫画の定番セリフを反芻した。
二人とも私のために喧嘩しないでっ!!
反芻すればするほどだらしが無くなる茉由の顔。
「そんなん、彩やって茉由とキスしとるやろ!」
そうだそうだ、もっと言ってやりなさい。マイハニー美優紀ちゅわん。
「…好きやからや」
マイダーリン彩!? なんて大胆なの? やだやだ、茉由、心の準備が…。
「美優紀の事が好きやからや」
美優紀の目が丸くなる。
「そんなん、美優紀が茉由とキスするから、ヤキモチ焼いて…茉由と間接キスした」
「はぁ? ヤキモチって………」
彩の本心が伝わったのか、顔を染めて耳まで赤くする美優紀。彩はアホ、と囁いて美優紀をそっと抱きよせた。
「私がホンマにキスしたい相手は、前も今も美優紀しかおらんで」
「それは私やって同じだよ……」
二人とも熱のこもった視線を交わすと、唇と唇を重ねた。まるでドラマのようなキスシーンだった。その時の彩と美優紀が覗かせた顔は少なくとも私が知っているキスする時の顔じゃなかった。とても愛おしそうな顔だった。
「美優紀が私を妬かせようと目論んで、茉由にキスしてんのミエミエ」
美優紀の唇から一旦離れた彩は少し意地悪っぽく左の口角をグイッと上げて微笑んだ。
「だって、彩さ茉由にめちゃ絡むし、離れ離れになるからってのは分かってても嫌やってん」
口を尖らせて拗ねる美優紀。
「私、茉由にさ。素直になれ、思いは告げるものって言われたんや。うちらダメだよな……辞める人に余計な心配かけるなんて」
「茉由にはお見通しなんやな。実は私も言われてん。キスは好きな人と付き合ってからしなさいって」
「……もうキスしてるやん」
「素直になれって、思いは告げるものって言われたでしょ?」
「……私と付き合ってください。大切にする」
「ふふっ」
2人はまたキスを交わした。今度は深めのキスだった。
「あ、そうだ。昨日の夜さ、ホテルでなんで私の事を避けまくったん?」
「そら、お前。理性というやつや」
美優紀は完全なわるきーの顔をして、色めいた視線を彩に送りつつ、クスクス笑いながら耳元で囁いた。
「コンサートの後、2人だけで燃えてみる?」
私の出る幕なし、と悟った茉由は踵を返し、その場を後にした。