昏迷

 窓から吹き抜ける湿っぽいそよ風がカーテンを揺らすとともに、陽光が薄暗い部屋の中心にあるテーブルを照らす。テーブルの上には数点の教科書と数十枚のプリントと筆記用具が積もるように散らかっていた。
 同じく、テーブルの横にあるベッドの下には2種類の部屋着と下着も散らかっていた。それらに温もりはかすかに残っている。ベッドの宮付に置かれているデジタル時計は、9時32分を示していた。

「ん……っ」

「はぁ、梨加ちゃん」

 私たちは朝っぱらから営んでいた。起床して、朝ごはんを食べて、梨加を部屋に連れて、速攻セックス、だ。
 ゆえに、カーテンで遮光しゃこうしているとはいえ、夏の朝は明るい。恋人の裸体に汗がにじんでいるのが裸眼ではっきりと見えるくらいには明るい。そして、夏の朝は暑い。地球に優しいエコ活動を推進すいしんする寮母の方針と、風邪を引かないようクーラーの温度を制限するスタッフの方針が、私たちのセックスを鬱陶うっとおしいものにさせた。
 サウナのような蒸し蒸しした部屋でセックスだなんて、私の性欲が猿並みじゃなければだるくてやってられない。汗で濡れた髪が、肌にまとわりつくのが不快でならなかった。

「友梨奈ちゃん……」

 梨加ちゃんの乳房に顔を埋めて愛撫している私の頭に手が置かれ、撫でてきた。撫でられるのはいい加減慣れてきた。心地いいし、悪くない。
 梨加ちゃんは私の頭に向かっていてきた。

「髪、伸びた?」

 加入当時はバスケ部に入っていたこともあって、耳の下ちょっとくらいまでの長さで短く切り揃えられたショートボブの髪はいつの間にか、鎖骨に届くくらいの長さになっていた。

「うん、伸びたかも」

 薄暗い中でも分かる色素の薄いピンク色の乳嘴を吸いながら答える。私の頭に置かれている手がぴくっと反応した。

「背も、伸びたよね?」

 返事代わりにコク、とうなずく。
 来年で高校になる私は成長期真っ最中だ。そして、思春期真っ最中でもあった。
 梨加ちゃんをもっと求めるように、顔をずらして谷間に埋めてぺろり、と舐めてみる。微かにしょっぱい味がした。
 恋人の反応をうかがうと、眉をハの字にさせて、真っ赤に染めた顔を横に伏せていた。何回抱いても、このような初々しい反応が男性にはたまらなく感じるのかもしれない。

 乳房をまさぐっていた手をそのまま下の方へと、梨加ちゃんの身体を這いずるように進む。以前まではいやいや抵抗していたのが、何回も身体を重ねていると素直に股を開いてくれるのが嬉しくなる。

「はぁぁ……」

 初めての時に、梨加ちゃんが教えてくれた箇所––––小さな突起、“クリトリス”を転がすように愛撫する。
 梨加ちゃんの口から溜め息混じりの悩ましい声がれた。

「あっ、んぅ……」

 この時、大きな風が吹いたのかカーテンが大きくめくれ、夏の陽光がスポットライトのように、私たちの情交を照らした。
 梨加ちゃんは反射的に両手で顔を隠して身を縮こめた。裸体に浴びせる陽光は痛みすら感じるくらい熱かった。不意に、夏の記憶がよみがる。

 

 垂れ目が可愛らしい童顔の少女が、蠱惑こわく的な笑みを浮かべながら私の若竿を手馴れた様子で蹂躙じゅうりんする、あまりにも刺激的で甘美な記憶––––。

 

 風が収まり、再び薄暗い空間に戻る。私は頭から振り払うように、ひたすら梨加ちゃんに集中した。
 どうやら、夢中で責めるあまり、つい力んでしまったらしい。

「痛……っ」

 梨加ちゃんが痛みを訴えてきた。

「あっ、ごめん」

 慌てて手を離す。梨加ちゃんはすぐに微笑んで、くいくいっと私の腕を引っ張ってきた。これは挿れていいよ、の合図でもあった。確かに、彼女のアソコは薄暗い中でもぬめっているのが見える。
 私の若竿は若さを誇示するようにギンギンと硬くみなぎらせ、鈴口からはカウパー液がとめどめなく分泌されていた。生臭い匂いがした。
 しかし、私は挿れたくなかった。挿れたくない、というより挿れる前にして欲しいことがあった。
 梨加ちゃんの手を引いて、私の若竿を握らせてみる。

「えっ」

 梨加ちゃんはびっくりしたのか、手を引っ込めた。表情には恥じらいと困惑の色が広がっている。

「ちょっと……舐めて、ほしい」

 哀願するように訊いてみた。恋人同士なのに、なぜかこの質問をするのには勇気が要った。

「ん……」

 梨加ちゃんは困ったように目を逸らして、唇を一文字に結んで何も言わない。

「嫌?」

 視界の端で、部屋の中にこぼれている陽光がきらめいていた。再び、あの記憶が蘇る。そう、ねるの口淫している淫猥な光景だ。

 

 他人の性器、すなわち排泄部分でもあるアソコを舐めるのは自分にでもはばかられる、異質な行為のように思えた。
 しかし、そのようなはしたない姿をさらけ出してでも奉仕する姿に一種の尊さを感じていた。自分も、相手に全てを曝け出して、全てをぶつけたい––––。

 

 私が奉仕すれば、梨加ちゃんからのお返しもあるかもしれないと期待した私は、彼女の股に顔を近づけた。しかし、その期待はすぐに裏切られる結果となった。

「やっ、やだぁ!」

 目の前で脚を閉ざされ、頑なに開こうとしない。しきりに頭を横に振っている。嫌よ嫌よも好きのうち、の抵抗ではない。本気の抵抗だった。
 私の中で何かがしぼんでいく。

 またみじめな私を見せしめるように、大きくカーテンが捲れて照らしてきた。
 まるで、悲劇のヒロインとして演劇に参加しているような錯覚さえ覚える。その惨めさがより、甘美な記憶へといざなう。

 

 不意打ちの顔射を食らっても嫌な顔ひとつもみせず、それどころかよろこぶように精液を舐めとってくれた、ねる。
 ならば、ねるが脱いだその先は––––。

 

(クソッ!)

 一気に不機嫌になってしまった私は、梨加の股を左右に大きく広げ、怒張したものをいきなり根元まで滑り込ませる。

「んぁっ、友梨奈ちゃ、は……」

 緩急をつけず、我武者羅がむしゃらに腰を振り、ベッドをきしませた。私の若竿にまとわりつく愛液の粘着音が次第に大きく奏でていく。

 線香花火のように、毛先にたまとなって溜まり膨らんでいた汗を飛び散らせ、それは俄雨にわかあめとなって梨加ちゃんの裸体に降らせる。
 梨加ちゃんは私の激しい律動に耐えるように目と口をぎゅっと閉じていた。
 暑いせいかイライラした私は彼女の腎部じんぶに指を食い込ませ、よりピストンを加速させた。汗のせいで肉の打擲ちょうちゃく音がけたたましく響く。二人の人間の体液が混じり合った淫臭が、蒸れた部屋に充満していく。
 いくら汗を流しても雑念もとい、甘美な記憶が流れることはなく、恋人の体液以上に私に纏わりついていた。

 

 これだから、夏は鬱陶しい––––。

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