いざ暇となると、なにして過ごせばいいのかわからない。メンバーたちは台風で休校になったのを喜ぶ生徒のように、プライベートの予定作りに夢中な様子だ。
(謹慎の意味を履き違えてるな)
仕事仲間たちとは相変わらず一定の距離を置いていた私は、メンバー達と過ごすなんて想定にはなかった。そうしたところで、寂しいとも思わなかった。
(別に慣れているし)
メンバーとはしばしの別れを惜しむことなく、笑顔で「お疲れ様、またねー」と挨拶してから部屋を後にした。
全員の視線が私に集まり、彼女達も笑顔で「お疲れ! 気をつけてー」と挨拶してくれた。そのあと目配せしあって、また予定作りに向き直った。
被害妄想かもしれないが、付き合い悪いみたいな視線に感じた。私は居た堪れない空気から一刻も早く逃れるよう早足で職場を後にする。
「あ! ずーみん」
楽屋を出たら由依と顔があった。由依のいつも据わりがちな目が丸くなって「もう帰るの?」と訊ねてきた。私にしてみれば、既に私服に着替え、まとまった荷物を背負っているのだから見れば分かるはずだと思っていた。とりあえず首を縦に振ると、由依は残念そうに微笑むのだから、どきりとしてしまった。
「そっか。せっかくだし、ずーみんとちょっと話せるかなぁと思ったけど、急いでるなら仕方ないよね」
人を誘うのにはあまり慣れていないだろう。由依は視線を泳がせながら、言葉を探している。勇気を出しただけに、がっかり気味な由依がいじらしくて。
「急いでないよ。行こ!」
私は由依の腕を組み、カラオケに行くことにした。道中の由依は嬉しさを隠しきれない様子で、私まで嬉しくなった。
渋谷のカラオケ店は平日の昼間にもかかわらず大盛況だ。オーラを消して手続きをする。
高校の友達が全くいないわけではないが、年が近い女の子と一緒に行くのは初めてのことかもしれなかった。ましてや、欅のメンバーとなら尚更だ。すると、由依が。
「私ね、実は友達とカラオケに行くの初めてなんだ。あ、欅の仲間とも初めて」
と言ってきたので、仲間意識が芽生えた気がして、ますます嬉しくなった。
由依といると気が楽と感じるのは、彼女が女子特有の詮索好きな趣味があまりなく、触れずにそっとしてくれるクールな一面もあるから。
一個しか違わない由依だが、おそらく私が経験している人生の酸いも甘いも(自分自身「甘い」は経験しているのか疑わしいところではあるが)、まだ経験していない少女だ。その割には達観しているところがあった。
歌にかける思いというものが共通していたのが大きかった気がする。とにかく、男兄弟の末っ子に生まれたせいか、女への免疫がなかった私は由依に対して煩わしさを感じないのである。